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「太平記」山名右衛門佐為敵事付武蔵将監自害の事(その11)

氏範うぢのり大きに牙を嚼みて、「無詮力態ちからわざゆゑに、組んで討つべかりつる長山を、打ち漏らしつる事のねたさよ。よしよし敵はいづれも同じ事、一人も亡ぼすに不如」とて、奪ひ取つたるまさかりにて、逃ぐる敵を追つめ追つ攻め切りけるに、兜の鉢を真つかうまでり付けられずと云ふ者なし。流るる血にはをのの柄も朽つる許りに成りにけり。美濃勢には、土岐七郎しちらうを始めとして、桔梗一揆の衆九十七騎まで討たれぬ。近江勢には、伊庭いば八郎はちらう蒲生がまふ将監しやうげん川曲かわぐま三郎・蜂屋将監しやうげん・多賀の中務なかづかさ・平井孫八郎・儀俄げが五郎知秀ともひで以下、三十八騎討たれぬ。この外粟飯原あいはら下野しもつけかみ匹田ひきだ能登の守も討ち死にしつ。後藤筑後の守かみ貞重さだしげも生けられぬ。打ち残されたる者とても、あるひは疵をかふむりあるひは矢種射尽くして、重ねて可戦とも思えざりければ、大将義詮朝臣よしあきらあそんも日暮れて東坂本へ落ち給ふ。




氏範(赤松氏範)はしきりに牙を噛んで([歯噛み]=[怒りや悔しさから歯をかみしめて音を立てること])、「つまらぬ力比べをして、組んで討つべき長山(長山頼基よりもと)を、打ち漏らしたことの無念さよ。まあよい敵は誰も同じよ、一人残らず亡ぼしてやろう」と申して、奪い取った鉞で、逃げる敵を追い詰め追い詰め切ったので、兜の鉢を真っ向まで割られぬ者はいませんでした。流れる血は斧の柄も朽ちるほどでした。美濃勢は、土岐七郎(土岐頼遠よりとほのことだが、すでに斬首されている)をはじめとして、桔梗一揆([土岐氏一族の強力な武士団])の衆九十七騎が討たれました。近江勢は、伊庭八郎・蒲生将監・川曲三郎・蜂屋将監・多賀中務・平井孫八郎・儀俄五郎知秀(儀俄知秀)以下、三十八騎が討たれました。このほかに粟飯原下野守(粟飯原清胤きよたね。ただし、下総守)・匹田能登守も討ち死にしました。後藤筑後守貞重(後藤貞重)は生け捕りにされました。打ち残された者も、あるい疵を被りあるいは矢種を射尽くして、重ねて戦うことができるとも思えませんでしたので、大将義詮朝臣(足利義詮。足利尊氏の嫡男)も日が暮れてから東坂本(現滋賀県大津市)に落ちて行きました。


続く


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by santalab | 2017-06-23 07:10 | 太平記 | Comments(0)

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