思ひ当てに、かの見給ひし手よりは、いとなまめかしう貴に書きたれど、「それなめり。げに、紛へる心かな」と思す。立ち返り、「心憂く。もて離れては思されじものを。『今よりは、親などとこそ頼み聞こえさせむ』と思う給へられるれ。いと忠実やかに、年来、『いかでものせさせ給ふらむ』と嘆き聞こえ給ひて、『思ひのほかならむ御様にてものせさせ給はば、御迎へも、いかでか』などなむ聞こえ給ふ。一人、心細くて思う給ふるに、いとうれしく見奉るも、いと頼もしくなむ思え侍る。『殿をば、かたじけなけれど、さる方に思ひ聞こえ給ひて、心安く思はば、取り分きて』となむ、君には語らひ聞こえさする」と聞こえ給へり。
大将【藤原仲忠】の思うところ、あの歌の字に比べて、たいそう魅力的で上品な筆跡でしたが、「あの女に間違いない。まさか、疑っておるのでは」と思いました。再度、「悲しいことです。他人と思ってほしくはありません。『これからは、親とでも思って頼りにしてほしい』と思っております。右大臣殿【藤原兼雅】もたいそう心配して、最近は、『いったいどうしておるのであろう』と悲しんで、『もし思いもしない暮らしをしておるのなら、迎えに、行かぬことがあろうか』などと申しております。ただ一人、物忌みに出かけて心細く思っておりましたが、幸運にも巡り会うことができました、なんとも頼もしい仏であることかと思っております。『殿【藤原兼雅】を、もったいなくも、夫と思われて、頼みとされるのならば、とりわけ大切にするよう』と、君【宮の君。藤原仲忠の長男】にも話しましょう」と伝えました。
(続く)