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「宇津保物語」楼の上(その9)

日暮れて、屏風のもとにて対面し給へり。いとあてに、気配けはひなども、式部卿の君よりも、心憎く恥づかしげにものし給へり。院の女御の御声に思え給へり。若君の御事も、おいらかにのたまふ様、恥づかしげなり。「今、必ず、御迎へ侍りなむ。しかしかなむ、常に聞こえ給ふ」とのたまへば、「何か、みづからは。常語り弄ずる人にてはんべらむも、見苦し。心苦しう見給へる人は、かの御心は頼もしげなく思え給ふを、げに、御心留めさせ給はむこそは、頼もしう侍らめ」。大将、「いかが」など聞こえ給うて、「やがて率て奉らむ」とのたまへど、「今、先づ、『さる人』など聞こえ給はむに、『げに』と思し出づること侍らばこそ」とのたまふ。




日が暮れて、大将【藤原仲忠】は女【宰相の上】と屏風近くで対面しました。女はとても上品で、雰囲気も、式部卿の君【式部卿の宮の中の君。藤原兼雅の妻】よりも、奥ゆかしく恥ずかしそうな様子でした。院の女御【朱雀院の女御】の声に似ていました。若君【小君】のことを、穏やかに申す様も、恥ずかしげでした。「すぐに、必ず、お迎えに上がります。お連れするようにと、右大臣殿【藤原兼雅】も常々申しております」と申せば、「どうして、参ることができましょう。人に笑われる身になりますのも、つらいこと。出来の悪いこの子のことを、殿【藤原兼雅】は頼りにならぬと思うことでしょう、まこと、大将殿【藤原仲忠】が心に留めておられることを、頼もしく思っております」。大将【藤原仲忠】は、「どうしてでしょう」などと申して、「ここよりお連れします」と申すと、「それでは、まず、『そのような人がいた』と殿【藤原兼雅】に申し上げられて、『まことに』と思い出されるようなことがございますあば参ることにいたしましょう」と答えました。


続く


by santalab | 2018-01-01 06:53 | 宇津保物語

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