またの日も、呼び奉り給ひて、御菓物など参り給へど、遊びのみし給ふ。大将の詩誦じ給へば、声いとをかしうて、もろともに誦じ給へば、「いとうつくしう。誰か、教へ奉りしは」。「母上」と聞こえ給へば、「をかしかりけり」と思す。
次の日も、大将【藤原仲忠】は小君を呼んで、菓子などを出しましたが、小君は遊ぶばかりでした。大将【藤原仲忠】が漢詩を口ずさむと、とてもかわいらしい声で、一緒になって口ずさんだので、「なんとも美しい声だ。誰が、教えてくれたのだ」。「母上【宰相の上】が」と答えたので、大将【藤原仲忠】は「なるほど」と思うのでした。
(続く)