Santa Lab's Blog


2017年 04月 12日 ( 2 )



「太平記」新田起義兵事(その5)

これによつて武蔵・上野より早馬を打つて鎌倉へ急を告ぐる事、櫛の歯を引くが如し。「さて敵の勢はいかほどあるぞ」と問へば、使者ども皆、「二十万騎にじふまんぎには劣り候はじ」とぞ答へける。仁木・細川の人々これを聞いて、「さては由々しき大事ごさんなれ。鎌倉中かまくらぢゆうの勢、千騎に増さらじと思ゆるなり。国々の軍勢はたとひ参るとも、今の用には立ち難し。千騎に足らぬ御勢を以つて、敵の二十万騎を防がん事は、叶うべしとも思え候はず。ただ先づ安房あは上総かづさへ開かせ給ひて、御勢を付けて御合戦こそ候はめ」と申されけるを、将軍つくづくと聞き給ひて、「軍の習ひ、落ちて後利ある事千に一つの事なり。勢をもよほさん為に、安房・上総へ落ちなば、武蔵・相摸・上野・下野の者どもは、たとひ尊氏に心ざしありとも、敵に隔てられて御方になる事あるべからず。また尊氏鎌倉を落ちたりと聞かば、諸国に敵になる者多かるべし。今度に於いては、たとひ少勢なりとも、鎌倉を打ち出でて敵を道に待て、戦を決せんにはしかじ」とて、十六じふろく日の早旦に、将軍わづかに五百余騎の勢を率し、敵の行き合はんずる所までと、武蔵の国へ下り給ふ。




こうして武蔵・上野より早馬を打って鎌倉へ急を告げること、まるで櫛の歯を挽く([物事が絶え間なく続く])ようでした。「敵の勢はどれほどか」と訊ねると、使者どもは皆、「二十万騎には劣りますまい」と答えました。仁木・細川の人々はこれを聞いて、「由々しき大事ぞ。鎌倉中の勢は、千騎に及ぶまいと思われる。国々の軍勢が参ったところで、今の用には立つまい。千騎に足らぬ勢をもって敵の二十万騎を防ぐことが、できるとも思えぬ。ただまず安房・上総に散って、勢を付けて合戦に及ぶのがよろしいでしょう」と申しましたが、将軍(足利尊氏)はつくづくと聞いて「軍の習い、落ちた後に勝つことは千に一つである。勢を集めるために、安房・上総へ落ちれば、武蔵・相摸・上野・下野の者どもは、たとえ尊氏に心ざしがあったとしても、敵に隔てられて味方になることはあるまい。また尊氏が鎌倉を落ちたと聞けば、諸国に敵になる者が多くいよう。今度に於いては、たとえ小勢であろうとも、鎌倉を打ち出て敵を道に待って、戦を決するほかない」と申して、(観応三年(1352))閏二月十六日の早旦に、将軍はわずかに五百余騎の勢を率し、敵に行き合う所までと、武蔵国に下りました。


続く


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by santalab | 2017-04-12 08:28 | 太平記 | Comments(0)


「太平記」安鎮国家の法の事付諸大将恩賞の事(その2)

四門しもんの警固には、結城ゆふき七郎左衛門しちらうざゑもん親光ちかみつ・楠木河内かはちかみ正成まさしげ塩冶えんや判官高貞たかさだ・名和伯耆はうきの守長年ながとしなり。南庭の陣には右は三浦の介、左は千葉の大介貞胤ちばのおほすけさだたねをぞ被召ける。この両人兼ねては可随其役由を領状申りやうじやうまうしたりけるが、臨其期千葉は三浦が相手に成らん事を嫌ひ、三浦は千葉が右に立たん事を忿いかつて、共に出仕しゆしを留めければ、天魔の障礙しやうげ法会ほふゑ違乱ゐらんとぞ成りにける。後に思ひ合はするに天下久しく無為ぶゐなるまじき表示へうじなりけり。されどもこの法の効験かうげんにや、飯盛いひもりの丸城は正成に被攻落、立烏帽子たてゑぼしの城は、土居・得能に被責破、筑紫は大友・小弐に打ち負けて、朝敵てうてきの首京都に上りしかば、共に被渡大路、やがて被懸獄門けり。




四門の警固は、結城七郎左衛門親光(結城親光)・楠木河内守正成(楠木正成)・塩冶判官高貞(塩冶高貞)・名和伯耆守長年(名和長年)でした。南庭の陣には右は三浦介(三浦時継ときつぐ?)、左は千葉大介貞胤(千葉貞胤)を召されました。この両人はかねてはその役に従うと領状申しておりましたが、その期に及んで千葉は三浦が相手になることを嫌い、三浦は千葉が右に立つことに腹を立てて、ともに出仕しませんでした、天魔の障礙([妨げ])が、法会の違乱([法に違反し秩序を乱すこと])となったのでした。後に思い合わせると天下が久しく無為([無事])とならぬ表示([兆候])でした。けれどもこの法の効験か、飯盛丸城(現大阪府大東市・四條畷市)は(楠木)正成に攻め落とされ、立烏帽子城(現愛媛県松山市)は、土居(土居通増みちます)・得能(得能通綱みちつな)に攻め落とされ、筑紫は大友・小弐に打ち負けて、朝敵の首は京都に上ると、ともに大路を渡され、やがて獄門に懸けられました。


続く


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by santalab | 2017-04-12 08:22 | 太平記 | Comments(0)

    

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