Santa Lab's Blog


2017年 04月 18日 ( 1 )



「太平記」千種殿並文観僧正奢侈の事付解脱上人の事(その4)

垂迹すゐじやくの方便聞けば、仮りに雖似忌三宝名、内証ないしやうの深心を思へば、それもなほ有化俗結縁理思えて、そぞろに感涙かんるゐ袖を濡らしければ、日暮れけれども在家なんどに可立宿心地もし給はず、外宮げくう御前おんまへ通夜念誦つやねんじゆして、神路山かみぢやまの松風にねぶりを覚まし、御裳濯川みもすそがはの月に心を清ましておしはましける処に、俄かに空掻き曇り雨風烈しく吹いて、雲の上に車をとどろかし、馬を馳する音して東西より来たれり。「あな恐しや、これ何物やらん」と上人消肝見給へば、忽然として虚空に瑩玉鏤金たる宮殿くうでん楼閣出で来て、庭上に引幔門前に張幕。ここに十方より所来の車馬しやばかく、二三千もあるらんと思えたるが左右に居流ゐながれて、上座に一人の大人たいじんあり。そのすがたはなはだ非尋常、たけ二三十丈にさんじふぢやうもあるらんと見揚げたるに、かしらは如夜叉十二の面上おもてうへならべり。四十二の手あつて左右に相連あひつらなる。あるひは握日月、あるひは提剣戟八竜にぞ乗つたりける。相順あひしたがふ処の眷属けんぞくども、皆非常人、八臂はつぴ六足にして鉄の楯をさしはさみ、三面一体にして金のよろひを着せり。




垂迹([仏や菩薩が衆生を仏道に引入れるために、仮に神々の姿となって示現すること])の方便([人を真実の教えに導くため、仮に取る便宜的な手段])というのは、仮にも三宝([仏・法・僧])の名を忌み嫌うところがありますが、内証([自己の心の内で真理を悟ること])の深心を思えば、それもなお化俗([世俗の人々を教化すること])結縁([仏・菩薩が世の人を救うために 手をさしのべて縁を結ぶこと])の理ありと思われて、思わず感涙に袖を濡らせば、日が暮れても在家に宿を取る心地もせず、外宮の御前で通夜念誦して、神路山(現三重県伊勢市宇治にある内宮南方の山域)の松風に眠りを覚まし、御裳濯川(伊勢神宮内宮神域内を流れる五十鈴川の異称)に映る月に心を清ましていると、にわかに空が掻き曇り雨風が激しく吹いて、雲の上に車を轟かせ、馬が馳せる音がして東西より何物かがやって来ました。「なんと恐ろしい、何物であろうか」と解脱上人は肝を冷やし見れば、忽然として虚空に玉を磨き金を散りばめた宮殿楼閣が現れました、庭上に幔を引き門前には幕を張っていました。ここに十方より車馬の客がやって来て、二三千もいると思われましたが左右に並び、上座に一人の大きな人が座していました。その姿はまったく尋常でなく、丈は二三十丈もあろうかと見上げると、まるで夜叉のような頭に十二の面上([顔])がありました。手が四十二本あって左右に並んでいました。あるいは日月を握り、あるいは剣戟([剣と鉾])を提げて八竜に乗っていました。相従う眷属([一族])どもも、皆只人でなく、八臂六足にして鉄の楯を持ち、三面一体にして金の鎧を着ていました。


続く


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by santalab | 2017-04-18 08:24 | 太平記 | Comments(0)

    

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