Santa Lab's Blog


2017年 04月 21日 ( 1 )



「太平記」神泉苑の事(その1)

兵革ひやうかくの後、妖気えうきなほ示禍。銷其殃無如真言秘密効験とて、俄かに神泉苑をぞ被修造ける。かの神泉園しんぜんゑんまうすは、大内だいだい始めて成りし時、准周文王霊囿、方八町はちちやうに被築たりし園囿ゑんいうなり。その後桓武くわんむの御世に、始めて朱雀しゆじやく門の東西に被建二寺。左をば名東寺右をば号西寺。東寺には高野かうや大師安胎蔵界七百余尊守金輪宝祚。西寺さいじには南都の周敏僧都しゆびんそうづ金剛界こんがうかいの五百余尊を顕はして、被祈玉体長久。斯かりし処に、桓武の御宇延暦二十三年春の頃、弘法こうぼふ大師為求法御渡唐とたうありけり。その間周敏しゆびん僧都一人奉近竜顔被致朝夕加持ける。ある時御門御手水てうづを被召けるが、みづこほつて余りにつめたかりけるほどに、しばしとてさしおき給ひたりけるを、周敏向御手水結火印を給ひける間、氷水ひようすゐ忽ちに解けて如沸湯なり。御門被御覧て、余りに不思議に被思召ければ、わざと火鉢に炭を多くをこさせて、障子しやうじを立てまはし、火気を内に被篭たれば、臘裏らふりの風光あたかも如春三月なり。帝御顔の汗を押しのごはせ給ひて、「この火をさばや」と被仰ければ、守敏また向火水の印をぞ結び給ひける。これによつて炉火ろくわ忽ちに消えて空しく冷灰れいくわいに成りにければ、寒気侵膚五体に如灑水。自此後、守敏加様かやうの顕奇特不思議事如得神変。斯かりしかば帝これを帰依渇仰きえかつがうし給へる事不尋常。




兵革([軍])が止んだ後も、妖気はなおも禍いを示していました。禍いは真言秘密([真言宗の教え])の効験([効能])が消えたせいだと、にわかに神泉苑(現京都市中京区にある寺院)を修造しました。かの神泉苑と申すは、平安京大内裏がはじめて出来た時、周文王(周朝の始祖)の霊囿([植物や動物のいる園、庭園])になぞらえて、四方八町に築かれた園囿でした。その後桓武(第五十代天皇)の世に、初めて朱雀門([大内裏に南面する正門])の東西に二寺が建てられました。(内裏から見て)左を東寺(今の教王護国寺)右を西寺と名付けました。東寺には高野大師(空海)が胎蔵界七百余尊を安置し金輪王([須弥山=古代インドの世界観 の中で中心にそびえる山。の四州を統治する王])が宝祚([天子の位])を守護しました。西寺には南都([奈良])の守敏僧都(平安時代前期の僧)が金剛界の五百余尊を安置して、玉体([天子または貴人の身体])長久を祈りました。そうこうするところに、桓武の御宇延暦二十三年(804)の春頃、弘法大師(空海)は求法のために入唐しました(ちなみに空海が東寺別当となったのは、入唐後の弘仁十四年(823))。その間守敏僧都一人が竜顔に近習し朝夕加持を行いました。ある時帝(桓武天皇)は手水を召されました、水が凍ってあまりに冷たかったので、しばらく置いておかれましたが、守敏が手水に向かって結火印を結ぶと、氷水はたちまちに解けて湯となりました。帝はこれをご覧になられて、あまりに不思議に思われたので、わざと火鉢に炭を多く熾させて、障子を立て廻らし、火気を内に籠められました、臘裏(陰暦十二月下旬)の風光はあたかも春三月のようでした。帝は顔の汗を押し拭われて、「この火を消さなくては」と申されると、守敏はまた向火水の印を結びました。すると炉火はたちまちに消えて冷灰になったので、寒気が膚を侵し五体に灑水([密教の儀礼に用いる水])を浴びせられたようになりました。この後も、守敏はこのように奇特([神仏の持っている、超人間的な力])を現して神変([人間の考えでは理解できない不思議な変化])不思議を起こしました。こうして帝は尋常でなく守敏に帰依([神仏や高僧を信じてその力にすがること])渇仰([深く仏を信じること])するようになりました。


続く


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by santalab | 2017-04-21 08:25 | 太平記 | Comments(0)

    

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