Santa Lab's Blog


2017年 05月 03日 ( 2 )



「太平記」武蔵野合戦の事(その8)

将軍石浜を打ち渡り給ひける時は、已に腹を切らんとて、よろひ上帯うはおび切つて投げ捨て高紐たかひぼを放さんとし給ひけるを、近習きんじふさぶらひども二十にじふ余騎かへし合はせて、追つくる敵の河中まで渡し懸けたると、引つ組み引つ組み討ち死にしけるその間に、将軍きふを遁れて向かうの岸に駆け上り給ふ。落ち行く敵は三万余騎、追つ懸くる敵は五百余騎、河の向かうの岸高くして、屏風びやうぶを立てたるが如くなるに、数万騎の敵返し合はせて、ここを先途と支へたり。日已にとりの下がりに成つて河の淵瀬も不見分、新田武蔵のかみ義宗よしむね続ひて渡すに不及、迹より続く御方はなし。安からぬ者かなと牙をみて本陣へと引つ返さる。また将軍の御運の強き所なり。




将軍(足利尊氏)が石浜(現東京都福生市牛浜?)を打ち渡る時には、すでに腹を切ろうと、鎧の上帯([鎧・腹巻・胴丸の類の胴先につける帯。ひもや布帯を用いる])を切って投げ捨て高紐([鎧の胴の綿上わたがみと胸板とをつなぐ紐])を外そうとしていましたが、近習の侍どもが二十余騎返し合わせて、追いかける敵が川中まで渡しかけたのと、引っ組み引っ組み討ち死にするその間に、将軍は急を遁れて向こう岸に駆け上りました。落ち行く敵は三万余騎、追いかける敵は五百余騎、川向こうの岸は高く、屏風を立てたようでした、数万騎の敵が返し合わせて、ここを先途と支えました。日はすでに酉([午後六時頃])の下がりになって川の淵瀬も見分けが付きませんでしたので、新田武蔵守義宗(新田義宗。新田義貞の三男)は続いて渡ることもできず、後に続く味方もいませんでした。無念なことよと歯嚙み([歯ぎしり])して本陣へと引き返しました。将軍の運の強さでした。


続く


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by santalab | 2017-05-03 08:29 | 太平記 | Comments(0)


「太平記」北山殿謀反の事(その6)

すなは中院なかのゐん中将ちゆうじやう定平さだひら結城ゆふき判官はうぐわん親光ちかみつ伯耆はうきかみ長年ながとしを差しへて、「西園寺の大納言公宗きんむねきやう・橋本の中将俊季としすゑ・並びに文衡ぶんひら入道を召し取つて参れ」とぞ被仰下ける。勅宣の御使ひ、その勢二千余騎、追ふ手搦め手より押し寄せて、北山殿の四方しはう七重ななへ八重やへにぞ取り巻きける。大納言殿、早やこのあひだの隠謀顕はれけりと思ひ給ふ。されば中々騒ぎたる気色もなし。事のやうをも知らぬ北の御方・女房にようばうたち・さぶらひどもはこは如何なる事ぞやと、周章あわてふためき逃げたふる。御おとと俊季朝臣としすゑあそんは、官軍くわんぐんの向かひけるを見て、心早き人なりければ、ただ一人きんでて、後ろの山よりいづちともなく落ち給ひにけり。




たちまち中院中将定平(中院定平)に結城判官親光(結城親光)・伯耆守長年(名和長年)を差し添えて、「西園寺大納言公宗卿(西園寺公宗)・橋本中将俊季(橋本俊季)・並びに文衡入道を捕らえて参れ」と命じられました。勅宣の使い、その勢二千余騎が、追手([大手]=[敵を表門または正面から攻める軍隊])搦め手([城の裏門や敵陣の後ろ側を攻める軍勢])より押し寄せて、北山殿([京都北山の衣笠山山麓に西園寺公経きんつねが建てた別荘])の四方を七重八重に取り囲みました。大納言殿(西園寺公宗)は、すでにこの間の隠謀が露見したかと思いました。そして騒ぐ様子もありませんでした。事情を知らぬ北の方・女房たち・侍どもはこれは何事と、あわてふためき逃げまどいました。弟の俊季朝臣(橋本俊季。ただし、西園寺公宗の弟ではない)は、官軍が向かって来るのを見て、機転が利く人でしたので、ただ一人抜け出すと、後ろの山からどこへともなく落ちて行きました。


続く


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by santalab | 2017-05-03 08:24 | 太平記 | Comments(0)

    

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