Santa Lab's Blog


カテゴリ:とりかへばや物語( 130 )



「とりかへばや物語」巻二(その9)

この産屋のほど過ぎぬれば、例の、吉野山に思し入りてぞ、よろづ思し慰めける。そのほどの事ども、くだくだしければさのみ書き続けんやは。




四の君の産屋の儀式が過ぎれば、いつものように、中納言【姫君】は吉野山を訪ねて、悲しみを慰めていました。そのほどの事は、繰り返しになりますので止めておきましょう。


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by santalab | 2014-12-29 17:04 | とりかへばや物語 | Comments(0)


「とりかへばや物語」巻二(その8)

男はさこそあらぬ、女はしもいと深くはおはせぬ折と言ひながら、今始めたる事ならねば、仲立ちの人も知らぬやうもなかりつらん、かうなど消息しけんものを、かかるほどうひとけ人給ひつらんは、おぼろけに思すにはあらぬなめり、かの人の、心ざしに任せて嬉しとは思ひながら、なま心劣りせぬやうはあらじかし、いと恥ずかしき人をかつはうち思ふらんかし、のどかに我なき隙々も多かるものを、かばかり打ち解け給へるほどの、いみじう騒がしう罵りたる折しも、見る人もありつらん、人目こそ我ため人のいみじういとをしけれ、なをいかにすべき世にかあらん、さりとて、このあたりに掻き絶えなんも、人聞きいと軽々し、さりとて、かくのみかたみに人目も包むましかめるに、知らず顔にて過ぐさん事も、いと心なきことと思ひ乱れて、遊びや何やかやとあれど、いたうももて囃さず。




男とはこういう生き物なのでしょう、女【四の君】が産後で動けない折とは言え、今に始まったことでなし、仲立ちの女房が知らぬはずもない、今夜のことも知らせてあったはず、このような折に訪ねて来るのは、四の君への愛情もただならぬものがあるのでしょう。仲立ちの女房の、好意に任せて浮かれて、気遣いしているようには思えない、きっとわたしのことも軽蔑しているのでしょう、わたしが不在でもっと気が楽な時も多くあるのに、大勢の人が集まる、どうしてこの儀式の日なのか、見る人もあるかもしれないし、人の知るところにもなればわたしにとっても四の君にとっても不幸なこと、どうすればよいものか、とはいえ、宰相中将と四の君が人目も気にせず密会していることを知りながら、知らぬ顔で見過ごすのも、情けのないように思われて心は乱れ、遊び([管弦])などがありましたが、中納言【姫君】は満足に楽しめませんでした。


続く


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by santalab | 2014-12-29 16:59 | とりかへばや物語 | Comments(0)


「とりかへばや物語」巻二(その7)

まだ事も果てぬに、中納言、衣どもを人に脱ぎかけて、いと寒かりければ、忍びて衣着替ふとて紛れ入り給へるに、帳の内にあきれ惑ひ騒ぐ気色の怪しさに、さし覗き給えれば、起きかける人は帳より外に出でたるべし。いたく騒ぎて、扇・畳紙たたうがみなど落としたなり。女君、いみじと思し入りて、隠さんの御心もなきに、やをら寄りて、扇の枕上に落ちたるを火のもとに寄りて見れば、赤き紙に竹に雪の降りたるなど描きたるが塗骨に張りたるに、裏の方に心ばへある事ども手習ひすさびたる、その人のなりけり。さればよと思ふに、かく紛れんとて来ぬにこそありけれと思ふに、いみじう妬かるべき事の様なれど、さしも思えず。




まだ宴も終わらぬうちに、中納言【姫君】は、衣を脱ぎ人に被けて、とても寒かったので、忍んで衣を着替えようと殿に入ると、四の君が帳の内であわて騒ぐ様子でしたので怪しく思い、内を覗き見すれば、あわて起きた人が帳から外に逃げ出しました。たいそうあわてていたので、扇・畳紙([懐紙かいし])を落として行きました。女君【四の君】も、たいそう焦っていたので、隠すこともままならず、中納言は近寄ると、扇が枕元に落ちていたので火の下に近付けて見れば、赤い紙に竹に雪が降っている絵が塗骨([扇や障子などの骨で、漆塗りに したもの])に張ってあり、裏の方にはなまめかしげな文が書かれていました、宰相中将の筆跡でした。やはりそうだったか、宴に紛れて密会していたのかと思えば、ひどく妬ましく思えることでしたが、中納言【姫君】にはそのような気は起きませんでした。


続く


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by santalab | 2014-12-29 15:36 | とりかへばや物語 | Comments(0)


「とりかへばや物語」巻二(その6)

外には、中納言拍子取りて、「伊勢の海」謡ふなる声、優れておもしろう聞こゆるを、怪し、かばかりの人を心に任せて見つつ、などて疎かりけん、さばかりのかたちにほひやかに、たをやぎおかしきにはたがひて、いみじう物忠実まめやかに、怪しきまでもておさめて、いといたう物を思ひ乱れたる様の常にあるは、いかばかりの事を思ひめて、ほかに移ろふ心のなかるらんと、ゆかしき事ぞ限りなきや。




外では、中納言【姫君】が拍子を取って、「伊勢の歌」を謡う声が、たいそう美しく聞こえていましたが、宰相中将はどういうことか、これほど美しい女を妻としながら、どうしてよそよそしくするのか、中納言は姿かたちも優れて華やかな人なのに、数寄風流な者たちとは違い、生真面目で、不思議に思えるほどに身を正し、たいそう悩んでいるように思われるのは、いったい何を思い詰めて、興味を覚えないのであろうかと、理解に苦しむのでした。


続く


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by santalab | 2014-12-29 14:17 | とりかへばや物語 | Comments(0)


「とりかへばや物語」巻二(その5)

こちたく長き髪を引き結ひてうち遣りたるなど、かくてこそまことにおかしう見まほしけれと思ふに、大方はかほり満ち、いみじうなつかしげなり。よろづを書き尽くし、さばかり隈なく色めかしき色好みの、深くあはれと心にめられんと尽くし給ふ言の葉・気色、何の岩木もなびきつべきに、女君も心強からずうち泣きて、いみじうあはれげなる気色に、いとど立ち別るべき空もなし。




とても長い髪を引き結び垂らした姿は、確かに美しい女だと思わずにいられませんでした。あたりには香りが充満して、惹きつけられるようでした。言葉を尽くし、余すところなく惹き付ける好き者が、深く想いを寄せるその言葉・姿は、心ない岩木でさえもなびくほどでしたが、女君【四の君】もまた情けに絆されて涙を流して、たいそう悲しげな表情を浮かべていたので、宰相中将は立ち去ることができませんでした。


続く


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by santalab | 2014-12-29 14:12 | とりかへばや物語 | Comments(0)


「とりかへばや物語」巻二(その4)

七日の夜、大将殿の御産養ひにて、上達部・殿上人、残りなく参り集ひたるに、宮の宰相のみぞ、いたはる事あつて参らぬ。いかにと人知れず思ひ惑はれし事を、平らかに念じなしても、人の上にうち聞きて、遥かにいぶせきに思し余り、左衛門が局におはしけり。「かばかりの契りを思し知らぬにはあらじ。ただ今宵夢ばかり」と責め惑ひ給ふを、いとわりなき事と思へど、いと心苦しきに、上りて見れば、人々は皆出でたり。大人しき人は、台盤所の方にてとかう言きて、大上の禄どもなど見給ふ事どもありて我が方におはしなどして、子持ちの御方、中々今宵湯ゆでなどして、人少なにて臥し給へり。中々さもありぬべき紛れかなと見て、御殿油などとかく紛らはして入れてけり。女君、いと折悪しと思しながら、あながちなりける契りのあはれに遁るべくもあらざりつるに、いと暗くはあらぬ火影に、意図ささやかに細うおかしげなる人の色は隈なく白きに、白き衣どもにうづもれて、頭に菊の上思えて綿引き散らされたり。




七日目の夜は、大将(三の君の夫)の産養い([平安時代、貴族の家で子どもが生まれると、三・五・七・九日目の夜に催す祝宴])が執り行われました。上達部・殿上人は、一人残らず集まりましたが、宮の宰相【宰相中将】ばかりが、病いと申して参りませんでした。四の君の出産のことを人知れず思い悩んで、安産であるようにと祈念していましたが、人を通じて聞いたところで、遠くから心配するほかなく思い余って、左衛門(四の君の女房)の局を訪ねました。「四の君との契りを知らぬはずはなかろう。今夜わずかでも逢わせてほしい」と責め立てたので、左衛門は叶わないと思いながらも、宰相中将の気持ちが察せられて、四の君の部屋を訪ねてみれば、女房どもは皆部屋を出ていました。年嵩の女房どもは、台盤所([台所])であれこれ指示を出し、大上([高貴な人の母の敬称])は禄([贈り物])を確認するために自分の部屋に帰っていたので、子持ちの御方【四の君】は、この夜湯浴みなどして、近くに女房も少なくて横になっていました。左衛門はめったにない好都合と、殿油([大殿油おほとなぶら]=[宮中や貴族の邸宅でともす灯火])などと言い紛らわして宰相中将を招き入れました。女君【四の君】は、どうしてこんな折の悪い時にと思いながらも、かたい契りのほどを思えば逃れようもありませんでした、さほど暗くはない火影に映る、くっきりと小柄で細く美しく色は透き通るほど白い四の君は、白い衣に埋もれて、頭には菊のせ綿([陰暦九月九日、重陽ちようやうの節句に行われた慣習。前夜、菊の花に霜よけの綿をかぶせ、その露と香りを移しとって、翌朝その綿でからだをなでると、長寿を得るといわれた])のように綿を被っていました。


続く


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by santalab | 2014-12-28 12:34 | とりかへばや物語 | Comments(0)


「とりかへばや物語」巻二(その3)

「いでや、さはれ。かくてあり果つべき身ならばこそは。世の人の見思はん言の葉を聞き入れられ奉るもあいなし。すべて我が身の世付かぬをこたりのみこそ、思ふにも尽きせぬ心地すれ」と、涙さへ落つるを、さばかりもて騒がるるに、由々しと見る人もこそとわづらはしければ、立ち退きぬる名残りも、女の御心の中ぞいと苦しう消えぬばかりなれど、人はいかでか思ひ知らん。ひとつに喜びて、殿上の御湯殿、大将殿の上迎へ湯などもて騒がるに、中納言の御有様、あまりすさまじうと目留むる人もあれど、人柄の余り思ひすまし、様悪しからずもてしづめ給へるけなめりとぞ見なしける。




中納言【姫君】は「そんなに、恥ずかしがらずともよろしいのでは。わたしが何も申さずにいるとでも思われましたか。世の人に知られたらどうするつもりだったのでしょう。すべてわたしの身から出た錆と思えば、後悔したところで仕方のないことですが」と、涙さえ流しながら申しました、出産のよろこびにまわりは騒ぎ合っていたので、不審に思われるのも煩わしく、中納言はそれだけ言い残すと四の君の許を立ち去りました、女【四の君】の心中は苦しく今にも絶えるばかりでしたが、他人は知る由もありませんでした。ただただまわりの人々はよろこび合って、殿上(右大臣の妻)が湯殿([産湯])、大将殿の上(左大臣の妻)が迎え湯([産湯の世話をする人])などと騒ぎ合っていました、中納言【姫君】が、あまりにも他人行儀なのでどういうことかと怪しむ人もありましたが、きっと人柄のせいでしょう、みっともないと気を落ち着かせているのではと思っていたのでした。


続く


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by santalab | 2014-12-28 11:09 | とりかへばや物語 | Comments(0)


「とりかへばや物語」巻二(その2)

大殿よりも、御湯殿の事などまで思し遣りたる様こちたきを、甲斐甲斐かひがひしう待ち取り、はやし給ふに、すべてたがふ所なく、ただ宮の宰相なる稚児の御かたちなるに、さればよとうち見るに胸潰れて、疎き人にだにあらで、昔より隔つることなく、かたみに纏はれたる人にしも、いかに怪しともおこがましとも思らんと、恥ずかしく心憂きに、胸痛きまで思ひ余り、子持ちの君、いみじかりつる事の名残り、綿など打ちかずき、所げにくくみ臥せられて寝給へるに、さし寄りて、「ものけ給はる」とある声に、うち驚きて見上げ給へれば、ただなる時だにいみじう恥ずかしげに、おぼろけの人見えにくきを、まいて思ふ心あり、打ち微笑みて「これはいかが御覧ずる。

この世には 人のかたみの 面影を わが身に添へて あはれとや見ん」

とのたまへる恥づかしげさに、何事かは言はれ給はん。顔を引き入れ給へるも、ことはりなりや。




大殿【右大臣】は、後の湯殿の儀式([皇子誕生のとき、吉日を選んで産湯を使わせる儀式])のことまでも、この子をあやしながら、話し聞かせていましたが、この子の顔は、宮の宰相【宰相中将】とそっくりでしたので、やはりそうかと思えば胸は潰れて、縁遠い者でなく、昔から親しく、付き合ってきた間柄でしたので、さぞやどういうことかおかしな者と思っていることだろうと、中納言【姫君】は恥ずかしく悲しくて、心苦しいほどでした、子持ちの君【四の君】は、産後の肥立ちで、綿などを被り、縮こまるように寝ていましたが、中納言はそばに寄ると、「聞きたいことがある」と声をかけました、四の君はその声に驚いて見上げると、普段でさえ気恥ずかしく、顔を合わせるのも憚れるほどでしたが、まして心やましく思われました、中納言は微笑みながら「どう思っているのか知りたくて。

このわたしが、人の形見のこの子を、我が子としてかわいがらなくてはいけないのですか」

と申したので四の君は恥ずかしくなって、何も言えませんでした。顔を覆い隠すのも、当然のことでした。


続く


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by santalab | 2014-12-28 11:04 | とりかへばや物語 | Comments(0)


とりかへばや物語

巻一
巻二

巻四
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by santalab | 2014-12-28 10:43 | とりかへばや物語 | Comments(0)


「とりかへばや物語」巻二(その1)

吉野の山の峰の雪、おぼつかなからぬほどに踏み鳴らし給ふ御恨みさへ、解くる世なきほどながら、月日もはかなく過ぎて、女君の御産屋のほどにもなりにけり。恐ろしく危うき事に思し騒ぎて、隙なき御読経・・大殿にも、怪しながら、人目例ならず見せじと添へ始められたる御祈りども、殿の内隙なきまでこちたきしるしにや、かねてより晴れ晴れしからずのみ悩み渡り給ひしを、いと平らかに、おかしげなる女にて生まれ給ひぬるを、思しつる本意に如く、行く末上なく思ひ遣らるる様にておわするを、いみじき事に大臣思しよろこび、御産屋の儀式有様、限りある事に事を添へ、急ぎ騒ぎ給ふ様、ことはりにも過ぎたり。




中納言【姫君】は吉野山の雪道を、おぼつかない足取りで踏み分けて通うようになりましたがそんな中納言を右大臣(四の君の父)は苦々しく思い、恨みは解けることはありませんでした、月日ははかなく過ぎて、女君【四の君】が産屋([出産時の女性を隔離するための小屋])に入るほどになりました。右大臣は恐ろしく思われるほどに騒いで、隙ないほどに読経・修法([除災、招福などを目的として、密教で実修される行法。加持祈祷])を行ったので・大殿(左大臣。中納言【姫君】の父)も、不思議なことと思いながら、人目を気にして同じように祈祷をはじめました、殿の内に隙もないほどのものでしたので霊験があったのか、常に気が晴れず苦しんでいた四の君でしたが、無事安産にして、かわいらしい女の子が生まれました、右大臣の本望である、行く末は后にと思えるほどでしたので、たいそう右大臣はよろこんで、産屋の儀式([産屋で行われる行事・儀式])の盛大さは、出来る限り盛大に執り行なおうと、急ぎ準備するのも、当然のことに思われました。


続く


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by santalab | 2014-12-28 10:39 | とりかへばや物語 | Comments(0)

    

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