Santa Lab's Blog


カテゴリ:栄花物語( 18 )



「栄華物語」蛛のふるまひ(その10)

かくて麗景殿の女御、ただならずなり給ひぬれば、春宮大夫いとうれしく思したり。その頃大将になり給ひぬ。殿は御慶び申し給ふを、聞かせ給ふにも、いみじくなむ思し召されける。十二月しはすの二十日余りの頃、内に御面皰にきみおはしまして、薬師くすしどもまゐりなどして、少しわづらはしう申しけり。いかなるべき心地にか。




こうして月日を経て麗景殿の女御(藤原延子のぶこ。第六十九代後朱雀天皇の女御。藤原道長の次男、藤原頼宗よりむねの次女)が身篭ったので、春宮大夫(藤原頼宗)はたいそうよろこびました。その頃大将になりました(右近衛大将)。殿(藤原頼通よりみち)は慶び申し([任官や位階昇進のお礼を申し上げること])を、聞きながら、思いは複雑でした(頼通は、第六十六代一条天皇の第一皇子敦康あつやす親王の長女、嫄子もとこを養女にし、後朱雀天皇の許に入内させたが、第三皇女祐子ゆうし内親王、第四皇女禖子ばいし内親王を生むと崩御した)。十二月の二十日余りの頃、内(後朱雀天皇)に面皰([小さな腫れ物])がお出きになり、薬師([医師])が参るなどして、少しあわただしくなりました。各々の思いはどうでしたか。


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by santalab | 2015-09-03 08:37 | 栄花物語 | Comments(0)


「栄華物語」蛛のふるまひ(その9)

月日はかなく過ぎて、九月の御念仏に、院に一品の宮渡らせ給ふ。女房十人ばかりして忍びやかなれど、上達部・殿上人いとおほまゐり給へり。御堂のひむがし北かけておはします。萩の薄物の御几帳ども絵をおかしう描きたるに、若き人々様々なる袖口ども押し出でたるいとをかし。「をぎの上風」「萩の下露」をしたる人もあり、「萩の風に浪よりかかり」、「ことだにをしき」、「取れど消えせぬ」ほどもをかし。ただ枝ながらと言ふべくもあらず。三位の吾亦紅われもかうの衣どもに、くれなゐの打ちたる赤色の唐衣着給へる、なほいと清げに、髪のかかり、肩付きなど、人に優れ給へり。色々に移ろひたる菊の中を押し分けて、「置き惑はせる白菊」の袖の見えたるもをかし。暮れ行くままに、月の隈なきに、打ちたるきぬどもに、薄物の唐衣の透きたるに、玉を貫き、露置かせ直したるが、いとをかしきに、資仲すけなかの少将、「れぬばかりも」とて寄りたるも、をりをかしかりき。十四日雨降りて口惜くちをしきに、出羽いではの弁、

罪すすぐ 昨日今日しも ふる雨は これやいちみと 見るぞうれしき

大和、
すすぐべき 罪もなき身は ふる雨に 月見るまじき なげきをぞする




月日はあっという間に過ぎて、九月(彼岸)の念仏に、院を一品宮(章子しようし内親王。第六十八代後一条天皇の第一皇女で第七十代後冷泉天皇中宮)が訪ねられました。女房は十人ばかりで忍びやかでしたが、上達部・殿上人がたいそう数多く参りました。御堂の東北に着かれました。萩([マメ科ハギ属])の薄物([薄く織った織物])の几帳には風流な絵が書いてありました、若い女房たちの様々な袖口が見えて趣きがありました。「をぎの上風」「萩の下露」(『秋はなほ 夕まぐれこそ ただならね 荻の上風 萩の下露』。藤原義孝よしたか)風情の人もあり、「萩の風に浪よりかかり」(?)、「ことだにをしき」(『うつろはむ ことだに惜しき 秋萩に 折れぬばかりも 置ける白露』。伊勢)、「取れど消えせぬ」(?)のほど趣きがありました。たかが枝と言うべくもありませんでした。三位の吾亦紅([表は紫黒色または紅白、裏は青色])の衣に、紅の砧を打った(つやを出したもの)赤色の唐衣([上着])を着た姿は、他にもまして美しく、髪のかかり、肩付きなどが、人に優れていました。色々に色変わりした菊の中を押し分けて、「置き惑はせる白菊」(『心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置き惑はせる 白菊の花』。凡河内躬恒おほしこうちのみつね)の袖が見えるのも魅力的でした。暮れ行くままに、月は隈なく、砧を打った衣が、薄物の唐衣に透けて、玉を貫き、さらに露を置いたようで、たいそう美しく、資仲少将(藤原資仲)が、「折れぬばかりも」(前出)と言って寄り添うのも、折から趣きがありました。十四日には雨が降り残念なことでした、出羽弁(平季信すゑのぶの娘)、

罪を雪ぐために昨日そして今日降る雨を、一味([ある種の趣き])と思えばうれしいものです。

大和、
雪ぐ罪もないわたしには、降る雨のせいで月を見ることができないことが悲しくて。


続く


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by santalab | 2015-09-03 08:12 | 栄花物語 | Comments(0)


「栄華物語」蛛のふるまひ(その8)

殿は日に添へても思し召し褪まさせ給ふ事なく、いみじくのみ思し召し歎かせ給ふ。前打さきうち追ひてまゐらせ給ふと聞かせ給ひては、先づ入り給ふべき道の障子さうじ押し開け、心して待ち聞こえさせ給ひ、よろづにいみじく見ても飽かず思し召しつるに、浅ましく言はん方なき御心のうちなり。秋になるままに、あはれにいみじき事をいづくにも思し召す。




殿(藤原頼通よりみち)もまた月日を経ても悲しみは癒されず、たいそう歎き悲しみました。前打ち([馬に乗って隊列の先頭に立って進む者。前駆])に続いて大将殿(藤原通房みちふさ。藤原頼通よりみちの長男)が参ると聞けば、まず入る道の障子を押し開き、心待ちにし、何を置いても大切に思っていましたのに、無念で言葉もない心の内でした。秋の訪れとともに、悲しみの中に大将殿のことばかり思うのでした。


続く


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by santalab | 2015-09-03 07:32 | 栄花物語 | Comments(0)


「栄華物語」蛛のふるまひ(その7)

今更にちごのやうにて物せさせ給ふ事とて、大納言殿の上、

風はやみ おき所なき 白露を 心にかけて ものぞかなしき

御返し、斎院の中納言の典侍ないしのすけ
数ならぬ 身にしみてこそ 思ひやれ こころづくしの 秋のしら露




今更に(藤原通房みちふさ。藤原頼通よりみちの長男)の幼い頃を思い出して、大納言殿(源師房もろふさ)の上(藤原尊子たかこ。藤原道長の五女)、

風が激しく、置き所もない白露のように思って、大事に養い育てて参りましたのに。悲しくて仕方ありません。

返し、斎院中納言典侍、
数ならぬ我が身ながら身に染みて思い遣られます。心尽きるほど悲しまれておられることでございましょう。


続く


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by santalab | 2015-09-02 22:42 | 栄花物語 | Comments(0)


「栄華物語」蛛のふるまひ(その6)

春宮大夫の姫君、この後久しう音連おとづれ聞こえさせ給はざりければ、大将殿の上、

はかなしと 思ひしほどに 露の身も きえやしにけん とふ人のなき

御返し、
思ひやる 心もつゆと 消えかへり えもいひやらで なげかれぞせし




春宮大夫(藤原頼宗よりむね。藤原道長の次男)の姫君(藤原昭子あきこ?)からの、音信がこの後久しく途絶えたので、大将殿の上(源師房もろふさの娘、源妧子げんし)から、
はかない命と思っているうちに、露の身も消えてしまったのでしょうか。訪ねる人もいなくなりました。

返し、
あなたの心中を思ってご無沙汰しておりました。心は露のように消えて、言葉にもならないほど歎き悲しんでおられるのではと。


続く


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by santalab | 2015-09-02 22:36 | 栄花物語 | Comments(0)


「栄華物語」蛛のふるまひ(その5)

大将殿おはしまし初めける春、うへの持たせ給へりけるあふぎに、手習ひなどせさせ給へりけるを、御硯の下にあるを御覧じ付けて、書き付けさせ給ひて置かせ給へる。

手すさびに はかなき跡と 見しかども 長きかたみに なりにけるかな




大将殿(藤原通房みちふさ。藤原頼通よりみちの長男)が馴れ初めの春、上(源師房もろふさの娘、源妧子げんし)が持っていた扇に、歌を書きましたが、硯の下にあるのを見つけて、書き付けて留めました。

手遊びに書いたちょっとした歌と思っていましたのに、終の形見になってしまいました。


続く


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by santalab | 2015-09-02 15:34 | 栄花物語 | Comments(0)


「栄華物語」蛛のふるまひ(その4)

四十九日果てて、山に上りて申したりける。座主、

たぐひなき 君がわかれは 程経れど おつるなみだの 色ぞかはらぬ

返し、大納言殿、
思ひきや 思ひの外の わかれして 深きなみだを かけんものとは




四十九日を終えて、比叡山に上った後に。座主が、

今までにないほど悲しい君(藤原通房みちふさ。藤原頼通よりみちの長男)との別れです。四十九日は過ぎましたが、落ちる涙の色は今も変わりません。


返し、大納言殿(藤原師房もろふさ)、
思いもしませんでした。突然の別れに、涙は止まることを知りません。


続く


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by santalab | 2015-09-02 15:31 | 栄花物語 | Comments(0)


「栄華物語」蛛のふるまひ(その3)

御法事の日をとこまゐり集ひたる、皆同じ様なる、濃き薄きばかりを、変はるしるしにてあるを御覧じて、

見渡せば みな墨染の 衣手は たちゐにつけて ものぞ悲しき




法事の日には男女諸共に参りましたが、皆同じ喪服姿でした、濃い薄いばかりを、誰と見て、

見渡せば皆墨染めの衣ばかり。起居たちゐする姿を見るにつけて悲しくなります。


続く


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by santalab | 2015-09-02 11:10 | 栄花物語 | Comments(0)


「栄華物語」蛛のふるまひ(その2)

御葬送の夜、物思えず惑ひ合ひたる心にも、さかしらに、うへ

うつせみの からを頼むに あらねども またこはいかに 別れはつらん

といみじう思し惑はる。そのおはしましける御帳の内に蜘蛛の巣を掻きたりければ、
別れにし 人はくべくも あらなくに いかにふるまふ ささがにぞこは

御返し、宰相の君、
君くべき ふるまひならぬ ささがには かきのみたゆる 心地こそすれ




葬送の夜、女房どもが物も思えず途方にくれる中に、気丈にも、上(源師房もろふさの娘、源妧子げんし)は、

この世を去った人を頼むことはできませんが、あまりにも突然のことに、あの人が亡くなったことがまだ信じられなくて。

と心の整理がつかないようでした。大将殿(藤原通房みちふさ。藤原頼通よりみちの長男)の部屋の帳の内に、蜘蛛の巣がありました、
この世を去った人が再び帰ってくる(来べく)ことはありませんのに、何を思ってささがに([蜘蛛])は巣を張るのでしょう。

返し、宰相の君、
君(藤原通房)が戻ってこないと知った時、ささがに([蜘蛛])の心もきっと糸が切れたような気持ちになることでしょう。


続く


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by santalab | 2015-09-02 10:59 | 栄花物語 | Comments(0)


栄花物語

巻第一
月の宴

蛛のふるまひ
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by santalab | 2015-09-02 08:37 | 栄花物語 | Comments(0)

    

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