Santa Lab's Blog


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「宇津保物語」藤原の君(その22)

ここは、大将殿の宮住み給ふ大殿おとど町。池広く、前栽せんざい、植木面白く、大殿ども、廊ども多かり。曹司ざうし町、下屋しもやども、皆檜皮ひはだなり。寝殿には、貴宮あてみや、小君たち、女御の君腹の皇女たち、合はせて七所、歳十三歳よりしもなり。御達ごたち、大人三十人ばかり、童六人、下仕へ六人、乳母どもなんどあり。皆、童、貴宮の御人なり。西の大殿、女御住み給ふ。下仕へ、童、大人、同じ数なり。内裏うちより御文あり、見給ふ。東の対には、女御の御腹の男皇子たち、いと数多あまたおはすなり。皆、碁打ちなどす。北の大殿は、宮、父大殿おとど住み給ふ。大臣、内裏へ参り給ふとて急ぐ。




ここは、左大将(藤原の君)の娘たちが住んでいる御殿町です。池は広く、庭の植木は趣きがあって、殿、廊がたくさんあります。使用人たちの住む町、召使いたちの建物も、すべて檜皮葺きです。寝殿([母屋])には、貴宮はじめ、幼い娘たち、女御(長女は女御です)の子である皇女たちの住む御殿が、合わせて七つあります、歳は十三歳より下の娘たちが住んでいます。女房たち、大人三十人ほど、子どもが六人、雑用係六人、乳母たちもいます。大人も、子どもたちも、貴宮の使用人です。西の御殿には、女御(長女)が住んでいます。雑用係、子ども、大人が、貴宮の使用人と同じ数だけいます。内裏より文があったので、左大将が目を通しています。東に対面する御殿には、女御の子である皇子たちが、とてもたくさんいます。皆、碁を打ったりしています。北の御殿には、宮(左大将の妻、女一の皇女)と、父(藤原の君)が住んでいます。左大将は、内裏へ参るため急いでいます。


続く


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by santalab | 2014-12-31 14:42 | 宇津保物語 | Comments(0)


「宇津保物語」藤原の君(その21)

また、かくて、夕暮れに雨うち降りたる頃、中島に、水の溜りに、にはと言ふ鳥の、心すごく鳴きたるを聞き給ひて、侍従、貴宮あてみやの御方におはして、かく聞こえ給ふ。

池水に 玉藻沈むは 鳰鳥の 思ひあまれる 涙なりけり

「とは御覧ずや」と聞こえ給へば、怪しう思して、いらへ聞こえ給はず。この侍従も、怪しきたわぶれ人にて、よろづの人の、「婿になり給へ」と、をさをさ聞こえ給へども、さも物し給はず、「この同じ腹に物し給ふ貴宮に聞こえ付かむ」と思せど、あるまじきことなれば、ただ、御琴を習はし給ふついでに、遊びなんどし給ひて、こなたにのみなむ、常に物し給ひける。




また、夕暮れに雨が降って、中島([池の中に作った島])に、水たまりができて、にほ([カイツブリ、カイツブリ科])という鳥が、すごく鳴くのを聞いて。侍従(藤原の君の七男、仲澄)は、貴宮の御殿を訪ねて、こう言いました。

池の水に玉藻が沈んでいます、玉藻は鳰鳥が思い悩んで思案にくれて流した涙なのでしょう。

「そうは思わないか」と言いましたが、貴宮は、気味悪がって、返事を返しませんでした。この侍従も、女性にだらしない遊び人だったので、誰かれも、「そろそろ結婚しなさい」と、何度も諭していましたが、まったく聞く耳を持たず、「母が同じ(女一の皇女)の貴宮と結婚したい」と思っていました、ありえないことでしたので、ただ、琴を教えるついでに、一緒に遊んでは、貴宮にだけ、いつもちょっかいを出していました。


(仲澄はかなり特異な性癖を持っていたということになりますか。いわゆる「兄弟愛」ってやつなのでしょうが、何事も度が過ぎると「病的」になってしまいます。)


続く


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by santalab | 2014-12-31 11:41 | 宇津保物語 | Comments(0)


「宇津保物語」藤原の君(その20)

月の面白き夜、源宰相、中の大殿おとどに立ち寄り給ひて、「兵衛の君、立ち出で給へ。月、いと面白し」など聞こえ給ひて、御前の花盛り、色々の花の蔭に立ち寄り給ひて、かくのたまふ。

花盛り 匂ひこぼるる 木隠れも なほ鶯は 鳴く鳴くぞ見る

などのたまひて、松の木のもとに立ち寄りて、かくなむ。
岩の上に しひて生ひ添ふ 松の音の 誰聞けとてか 響きますらむ

とのたまふ時に、皆人あはれがる。木工もくの君といふ人、いたはりある者にて、「これを聞き知らぬやうなるは、いと情けなし」とて、君たちをも、「なほ、こればかりをば聞こえ給へ」と聞こゆれば、ちご君なむ、御前なるさうの琴に弾き鳴らし給ひける。
響くとも 音には聞こえで 末の松 今宵も越ゆる 波ぞ知らるる

また、宰相の君、
涙川 汀や水に まさるらむ 末より滝の 声も淀まぬ




月が美しい夜に、源宰相(源実忠さねただ)は、藤原の君の御殿に立ち寄って、「兵衛佐(源顕澄あきずみ)よ、出て参られよ。月が、とても綺麗だ」などと言って、目の前の花盛りになった、色々な花が咲き誇った木の陰に立ち寄って、こう言いました。

花盛りで匂いがこぼれる木の陰で、鶯がしきりに鳴いている。どうか、部屋から出てわたしに会っておくれ。

などと言って、次に松の木の下に立ち寄って、言いました。
岩の上に根を張る松風の音は、誰に聞かせるためだろう(貴宮ですね)、より響きをましているようだ。

と言っていると、御殿の人は皆、源宰相のことがかわいそうになってきました。木工(木工寮は、宮内省に属する機関でした)の君という者(貴宮の女房)は、思いやりのある人でしたので、「源宰相に返事をしないのは、あまりにもかわいそうなことです」と言ったので、他の者たちも、「まあ、今回だけは」と言って、ちご君(藤原の君の十女、貴宮のすぐ下の同母妹、貴宮は九女)が、前に置かれた筝の琴(琴です)を弾き鳴らしました。
源宰相は松風が響くといいますが、わたしには何も聞こえません。末の松山ではありませんが源宰相に聞こえるのは波の音では(この歌は、「古今和歌集」の第1093番の「君をおきて あだし心を 我がもたば 末の松山 浪も越えなむ」を引用しています。意味は、「あなたをさし置いて浮気心をわたしが持ったとすれば、末の松山〈今の宮城県多賀城市あたりらしい、二本の松の木があるそうです〉を波が越えることでしょう」、末の松山は山というか小高い丘のようになっているらしく、そんなことはありえないという意味になるそうです。さて、「響くとも~」では、「越ゆる波」といっていますから、「越ゆる波」=「浮気心」となって、「浮気心が見え見えですよ」といっているわけですね。)

源宰相が答えて、
わたしの涙はみぎは([水際])の水にまさるほどに、とめどなく流れ落ちています。わたしの目から流れる涙は滝になって、常に音を立てて流れ出すのです。


続く


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by santalab | 2014-12-31 10:19 | 宇津保物語 | Comments(0)


「松浦宮物語」三(その20)

「なほこの度は、待つ人もあながちに深き心ざし背き難ければ、頼み難きあだの命なれど、二人の後までおのづから永らふる身ならば、いま一度ひとたびは思ひ立たれなむや、かくながらしみ止めたらむよりも、それや深き心ざしのほど知られむ」とのたまはする御金言かねごとも、涙に咽びて、え聞こえ遣らず。

「かぎりあらむ いのちをさらに をしみても 君のみことを いかがわすれむ」

「これゆゑぞ 我も命の をしまれむ ただなほざりに たのめおくとも

さらば、永らふる身ともがな」とのたまはする御気色も、いとおよすげて、けうらにぞおはします。




「我が国に留まってほしいのは山々だが、帰国を待つそなた母のこと思えばこの国に留まらせることはできまい、はかないこの世の命とは申せ、先立つであろう両親のことを思えば、今一度会いたいであろう、そなたの帰国を許す、わたしの思いのほどを知ってほしい」と申される金言も、涙に咽んで、声にはなりませんでした。

「限りある命が惜しく思われます。帝のお言葉を生涯忘れることはございません。」

「そなたとの再会を願えば、わたしも限りある命が惜しい。たとえ望み薄いものであろうとも。

せめて、そなたと再会できることを願いながら永らえることにしようぞ」と申される帝の姿は、とても大人びて、りっぱでした。


続く


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by santalab | 2014-12-31 08:15 | 松浦宮物語 | Comments(0)


「松浦宮物語」三(その19)

「事のついでありて、鄭衛ていゑいこゑを好まねど、礼楽の道捨つべきにあらねば、聞き合はせまほかりつる物の音をだに、金石絲竹しちくを並べて止めたる頃にて、口惜くちをしうも過ぎぬるかな。なほ早き月日の一巡りをだに待ち過ごさざりつる恨みなむ、何の深さも忘れぬべかりける」とのたまはすれど、深く思へるところをたがへじの御おきてなれば、いとぞ甲斐かひなき。




「先帝の諒闇につき、鄭衛の音([鄭と衛の二国の音楽はみだらで,人の心を乱すものであったことから、野卑猥褻で風俗を乱す音楽 。『礼記楽記』])を自粛していますが、礼楽([社会秩序を定める礼と、人心を感化する楽。中国で、古くから儒家によって尊重された])の道を捨て去るべきでなければ、そなたと弾き合わせたかった、金石絲竹([金=指金属制的楽器、石=指石制的磬、絲=指弦類楽器、竹=指管類楽器])もすべて音を止めた時ならば、残念なこと。あと一月さえもともに過ごされぬこの悲しみをおいて、何の悲しみがあろうか」と申されましたが、先帝を偲ぶ法ならば、仕方のないことでした。


続く


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by santalab | 2014-12-30 10:18 | 松浦宮物語 | Comments(0)


「とりかへばや物語」巻二(その9)

この産屋のほど過ぎぬれば、例の、吉野山に思し入りてぞ、よろづ思し慰めける。そのほどの事ども、くだくだしければさのみ書き続けんやは。




四の君の産屋の儀式が過ぎれば、いつものように、中納言【姫君】は吉野山を訪ねて、悲しみを慰めていました。そのほどの事は、繰り返しになりますので止めておきましょう。


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by santalab | 2014-12-29 17:04 | とりかへばや物語 | Comments(0)


「とりかへばや物語」巻二(その8)

男はさこそあらぬ、女はしもいと深くはおはせぬ折と言ひながら、今始めたる事ならねば、仲立ちの人も知らぬやうもなかりつらん、かうなど消息しけんものを、かかるほどうひとけ人給ひつらんは、おぼろけに思すにはあらぬなめり、かの人の、心ざしに任せて嬉しとは思ひながら、なま心劣りせぬやうはあらじかし、いと恥ずかしき人をかつはうち思ふらんかし、のどかに我なき隙々も多かるものを、かばかり打ち解け給へるほどの、いみじう騒がしう罵りたる折しも、見る人もありつらん、人目こそ我ため人のいみじういとをしけれ、なをいかにすべき世にかあらん、さりとて、このあたりに掻き絶えなんも、人聞きいと軽々し、さりとて、かくのみかたみに人目も包むましかめるに、知らず顔にて過ぐさん事も、いと心なきことと思ひ乱れて、遊びや何やかやとあれど、いたうももて囃さず。




男とはこういう生き物なのでしょう、女【四の君】が産後で動けない折とは言え、今に始まったことでなし、仲立ちの女房が知らぬはずもない、今夜のことも知らせてあったはず、このような折に訪ねて来るのは、四の君への愛情もただならぬものがあるのでしょう。仲立ちの女房の、好意に任せて浮かれて、気遣いしているようには思えない、きっとわたしのことも軽蔑しているのでしょう、わたしが不在でもっと気が楽な時も多くあるのに、大勢の人が集まる、どうしてこの儀式の日なのか、見る人もあるかもしれないし、人の知るところにもなればわたしにとっても四の君にとっても不幸なこと、どうすればよいものか、とはいえ、宰相中将と四の君が人目も気にせず密会していることを知りながら、知らぬ顔で見過ごすのも、情けのないように思われて心は乱れ、遊び([管弦])などがありましたが、中納言【姫君】は満足に楽しめませんでした。


続く


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by santalab | 2014-12-29 16:59 | とりかへばや物語 | Comments(0)


「とりかへばや物語」巻二(その7)

まだ事も果てぬに、中納言、衣どもを人に脱ぎかけて、いと寒かりければ、忍びて衣着替ふとて紛れ入り給へるに、帳の内にあきれ惑ひ騒ぐ気色の怪しさに、さし覗き給えれば、起きかける人は帳より外に出でたるべし。いたく騒ぎて、扇・畳紙たたうがみなど落としたなり。女君、いみじと思し入りて、隠さんの御心もなきに、やをら寄りて、扇の枕上に落ちたるを火のもとに寄りて見れば、赤き紙に竹に雪の降りたるなど描きたるが塗骨に張りたるに、裏の方に心ばへある事ども手習ひすさびたる、その人のなりけり。さればよと思ふに、かく紛れんとて来ぬにこそありけれと思ふに、いみじう妬かるべき事の様なれど、さしも思えず。




まだ宴も終わらぬうちに、中納言【姫君】は、衣を脱ぎ人に被けて、とても寒かったので、忍んで衣を着替えようと殿に入ると、四の君が帳の内であわて騒ぐ様子でしたので怪しく思い、内を覗き見すれば、あわて起きた人が帳から外に逃げ出しました。たいそうあわてていたので、扇・畳紙([懐紙かいし])を落として行きました。女君【四の君】も、たいそう焦っていたので、隠すこともままならず、中納言は近寄ると、扇が枕元に落ちていたので火の下に近付けて見れば、赤い紙に竹に雪が降っている絵が塗骨([扇や障子などの骨で、漆塗りに したもの])に張ってあり、裏の方にはなまめかしげな文が書かれていました、宰相中将の筆跡でした。やはりそうだったか、宴に紛れて密会していたのかと思えば、ひどく妬ましく思えることでしたが、中納言【姫君】にはそのような気は起きませんでした。


続く


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by santalab | 2014-12-29 15:36 | とりかへばや物語 | Comments(0)


「とりかへばや物語」巻二(その6)

外には、中納言拍子取りて、「伊勢の海」謡ふなる声、優れておもしろう聞こゆるを、怪し、かばかりの人を心に任せて見つつ、などて疎かりけん、さばかりのかたちにほひやかに、たをやぎおかしきにはたがひて、いみじう物忠実まめやかに、怪しきまでもておさめて、いといたう物を思ひ乱れたる様の常にあるは、いかばかりの事を思ひめて、ほかに移ろふ心のなかるらんと、ゆかしき事ぞ限りなきや。




外では、中納言【姫君】が拍子を取って、「伊勢の歌」を謡う声が、たいそう美しく聞こえていましたが、宰相中将はどういうことか、これほど美しい女を妻としながら、どうしてよそよそしくするのか、中納言は姿かたちも優れて華やかな人なのに、数寄風流な者たちとは違い、生真面目で、不思議に思えるほどに身を正し、たいそう悩んでいるように思われるのは、いったい何を思い詰めて、興味を覚えないのであろうかと、理解に苦しむのでした。


続く


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by santalab | 2014-12-29 14:17 | とりかへばや物語 | Comments(0)


「とりかへばや物語」巻二(その5)

こちたく長き髪を引き結ひてうち遣りたるなど、かくてこそまことにおかしう見まほしけれと思ふに、大方はかほり満ち、いみじうなつかしげなり。よろづを書き尽くし、さばかり隈なく色めかしき色好みの、深くあはれと心にめられんと尽くし給ふ言の葉・気色、何の岩木もなびきつべきに、女君も心強からずうち泣きて、いみじうあはれげなる気色に、いとど立ち別るべき空もなし。




とても長い髪を引き結び垂らした姿は、確かに美しい女だと思わずにいられませんでした。あたりには香りが充満して、惹きつけられるようでした。言葉を尽くし、余すところなく惹き付ける好き者が、深く想いを寄せるその言葉・姿は、心ない岩木でさえもなびくほどでしたが、女君【四の君】もまた情けに絆されて涙を流して、たいそう悲しげな表情を浮かべていたので、宰相中将は立ち去ることができませんでした。


続く


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by santalab | 2014-12-29 14:12 | とりかへばや物語 | Comments(0)

    

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