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Santa Lab's Blog


「酔い源氏」夢浮橋(その13)

女は子どもの頃を思い出して、まるで夢のように思うのでした。まずは母のことを、とにかく聞きたくて「ほかの人のことは、おのずと耳に入りますが、母親がどうしておられるのかは、まったく聞くことがありません」と思いながら、小君を見てとても悲しくなって、涙をぽろぽろと流すのでした。小君はとてもかわいくて女に少し似ていました。尼宮は「兄弟ではありませんか。話をなさりたいこともありましょう。内にお入れしましょうか」と言うと、女は「どうしてそのようなことを申されます、今は世にある者とは思ってはおりません、怪しい姿に様を変えて、あの子に会うのが恥ずかしい」と思えば、しばらくためらって、「あなたがおっしゃる通りかもしれません。けれども隠し事があったと思われては心苦しく、何も申しません。わたしの浅ましい姿を不思議に思っておられたことでしょうが、あの時移し心も失せ、魂などと申すものさえすっかり変わってしまったのかも知れません。なんとかして昔のことを思い出そうとしましたが、わたしのことながらまったく思い出すことができないのです。紀伊守とか申す人が、世間話をした中に見知る人がいたのではないかと、わずかに思い出すような気がしたのですが。


続く


# by santalab | 2014-07-09 20:23 | 源氏物語


「酔い源氏」夢浮橋(その12)

疑いようもなく、僧都が還俗させようとしていることは明らかでしたが、ほかの人には何のことかさっぱり分かりませんでした。尼君から「この君【小君】は誰ですか。なんと悲しいこと。やはり今まで何か隠しておられたのですね」と責めました。女は少し外に目を遣ると、今が世の限りと思った夕暮れにとても恋しく思った弟でした。同じ所に住んでいた頃は、決して仲が良いとはいえずたいそう生意気で憎らしく思っていましたが、母がたいそうかわいがって宇治にも時々連れて来たので、少し大きくなってからは互いに仲良くしていました。


続く


# by santalab | 2014-07-09 20:12 | 源氏物語


「酔い源氏」夢浮橋(その11)

尼君はますますどういうことかと訝しがりながらも文を見て、「これは、確かに、僧都の文です」と申して、「こちらへお通しなさい」と告げました。とても美しく瑞々しい童が、すばらしい装束で女房の後に付いて来ました。円座を差し出すと、簾の近くに座って、「内々にお伝えしたいことがあると、僧都が申されました」と言ったので、尼君は「そうでしたか」と申して、文を取り入れて見れば、「入道の姫君の御方に、山より」と名が書いてありました。尼君はそのような者はここにはおりませんなどと偽ることもできませんでした。女の心は落ち着かず、ますます奥に下がり、人に顔も見せることができないようでした。「いつもは礼儀もあるお方なのに、どうされましたか、思いがけなくも文をいただいたというのに」などと言って、僧都の文を見れば、「今朝、ここに大将殿【薫】がお見えになられて、あなたのことを訊ねられて、初めより今までのことを詳しくお話ししました。大将殿に心ざし深いお方の仲を引き裂いて、みすぼらしい山賤の中に交じって出家させたこと、かえって仏の責めを受けることになるのではないかと、話を伺って驚いております。どうでしょうか。かつての契りに過つことなく、愛執の罪を晴らされてはいかがですか、一日の出家の功徳は限りないものでございます、きっと仏が守護なさることでしょう。詳しい話はみずから出向いて申し上げましょう。おおよそのことは小君が話しましょう」と書いてありました。


続く


# by santalab | 2014-07-09 20:07 | 源氏物語


「酔い源氏」夢浮橋(その10)

尼君の許へは、まだ朝早く僧都の許より、「昨夜、大将殿【薫】のお使いで、小君が参りましたか。思いもしなかったことを大将殿からお聞きして、無益なことをしたものだとかえって恐縮しておりますと姫君にお伝えください。わたしから訊ねたいことが多くありますが、後に改めて」と書いてありました。「これはどういうことかしら」と尼君は驚いて、女の許に持って参って見せれば、女は顔を赤らめて、「わたしのことが知られてしまった」と思えば胸は苦しく、「何か隠していた」と恨まれることにもなると思って、何と答えてよいのかも分からず黙っていましたが、尼君が「何か申してください。黙っていては何のことやらさっぱり」と、たいそう恨み言を申して、意外なことを知らないままに責め立てていましたが、「山より、僧都の文を携えて参った人がおります」と知らせました。


続く


# by santalab | 2014-07-09 20:01 | 源氏物語


「酔い源氏」夢浮橋(その9)

薫大将は、「この子【小君】をすぐに遣わそう」と思いましたが、人目が多くて具合が悪くて殿に帰ると、次の日、今日こそはと訪ねさせました。親しい者で目立たないほどの者を二、三人見送りに付けて、昔からの髄身も付けました。人に知られない間に小君を呼び寄せて、「お前の亡くなった姉の顔は覚えているか。今は世に亡き人と諦めていたが、確かに生きていると聞いたのだよ。他人には知られたくない、お前が訪ねよ。母にはまだ申してはならぬ。大騒ぎになって、知られたくない人にまで知られてしまっては元も子もないからな。お前の親のことを思えば不憫だが、せめてお前に行かせよう」と、薫大将は殿を出す前に強く口固めしました、幼いながらも、姉弟は多くいる中で小君の顔かたちは、ほかに女に似る者がないほどに美しく姉のこともはっきり覚えていましたので、亡くなったと聞いてとても悲しく思っていました。薫大将から生きていると聞いて、うれしくて涙が落ちるのが恥ずかしく、「はい、分かりました」とわざと大きな声で答えました。


続く


# by santalab | 2014-07-09 19:56 | 源氏物語

    

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