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Santa Lab's Blog


「酔い源氏」夢浮橋(その8)

小野では、女はたいそう深く茂った青葉の山に向かい、気が紛れることはありませんでしたが、遣り水の螢ばかりを昔を偲ぶ慰めとして眺め暮らしていました。いつものように女が眺めていると、遥か遠くの谷に見える軒端から前駆が格別の先払いをして、とても数多く灯した火がまばゆいばかりの光を放っていましたので、尼君たちも軒端に出てきました。「いったいどなたでしょう。御前がたいそう数多くおられますよ」「昼に、あちらに引き干しを差し上げましたが返事に、『大将殿【薫】がお訪ねになられて、饗応を急ぎ用意しなくてはなりません、ちょうどよい時に持って来られた』と、申されましたよ」「大将殿とは、女二の宮の夫【柏木】(朱雀院の第二皇女の夫。柏木はすでに亡くなっている。薫大将は、光源氏の次男であるが実は柏木の長男)ではないでしょうか」などと言うのも、たいそう世間から遠く離れた田舎にふさわしいものでした。まったくそのような暮らしぶりだったのでしょう。大将殿は時々、こうして山路を分けて山に上ってていましたが、この度ははっきりと随身の声が思いがけなくも近くに聞こえました。月日は過ぎ行きましたが、女は昔のことを忘れていませんでした。「今さら何を後悔しても仕方のないこと」と思ってもやはりつらくて、阿弥陀仏に悲しみを紛らわして何も言わずにいました。横川に通う人ばかりが、このあたりでは身近な人でした。


続く


# by santalab | 2014-07-09 19:35 | 源氏物語


「酔い源氏」夢浮橋(その7)

僧都も、なるほどとうなずくほかありませんでした、「それはそれは尊いことでございます」などと申しているうちに、日が暮れてしまったので、薫大将は「坂本は中宿りとしてもよい所だし、あやふやなまま僧都と話しをしてもうまく事は運ばないだろう」と、思い悩んだあげく帰ることにしました、僧都は弟の童【小君】に目を留めて褒めました。薫大将は「とにかくこの子に任せましょう、まずはそれと悟られないように」と申したので、僧都は文を書いて渡しました。「時々は山を訪ねて遊んでいきなさい」と申しながら。「わたしにはこの子が他人とは思えません」と薫大将に話しましたが、小君にはどういう意味が含まれているのか分かりませんでした。小君は文を受け取ると薫大将の供に付いて出て行きました。坂本に着くと、薫大将は御前の者たちとは少し離れて、「気付かれないように」と申しました。


続く


# by santalab | 2014-07-09 19:00 | 源氏物語


「酔い源氏」夢浮橋(その6)

薫大将は女の弟の童【小君】を、供に連れて来ていました。ほかの兄弟たちに優り顔かたち美しい者でした、これを呼び出して、「この子は、その人に近い縁の者ですが、この子を先ず遣ることにします。どうか文を一行書いてください。その人でなく、ただ探している人がいる、とばかり書いていただければ結構です」と申しました。僧都は「このわたしが、文を書けば、かならずや罪を被ることになりましょう。知る限りのことは、先ほどすべてお話ししました。これより先は、大将殿【薫】がお立ち寄りになり、お話しするなりなさるべきでしょう、そのことには何の支障もございません」と申しました、大将殿(薫)は笑って、「罪作りの導と思っておられるのなら、お恥ずかしい限りです。わたしが、俗の姿で今まで過ごしてきたことが不思議に思えます。幼い頃より、仏に帰依する心ざしは深くありましたが、三条の宮【朱雀院女三の宮】(薫の生母)が、心細く思われて、頼むべくもない我が身ひとつを縁と思われていましたので、避けることのできないものに思えて、浮き世に関わってきたのです、自然と位も高くなり、身の置き所さえ思うままにはいかなくて、出家を願いながらもこうして過ごして参りました、避けられないことも、数増さりつつ過ごし、公私ともに遁れられないことですれば、仕方のないことでした。それでも、仏が戒められたことは、わずかに聞き及ぶことであっても、どうして破ることができようと、慎んで参りました、心の内は聖に劣らないものでございます。まして、ほんの些細なことで、思い罪を受けられるなどとどうして思われるのでしょうか。まったくありえないことです。ご心配なされませぬよう。ただかわいそうな親の思いなどを、話したいと思うだけのことですれば、かえって善行ともなりましょう」などと、昔から仏道への思いが深いことを話しました。


続く


# by santalab | 2014-07-09 08:42 | 源氏物語


「酔い源氏」夢浮橋(その5)

罪が軽くなるのならば、出家されるのもよろしかろうと気安く思っておりました、この人の母が、たいそう悲しんでおられることをお聞きしたからには、ぜひ告げ知らせたいと思いますが、数箇月隠れておられた意思に背くようで、かえって煩わしいことになりはありますまいか。とは申せ親子の仲の思いは断ち切れないものですれば、悲しみに耐え切れなくて、訪ねて来られるかもしれません」と申しました、薫大将は、「たいそうあやふやな話をしましたが、どうか坂本にお下りください。わたしも話をお聞きして、きっと思い過ごしではないように思うのです、夢のようなことではありますが還俗のことをも、今からでも遅くはないとお話くだされば、と思っています」と申す様子が、とてもあわれに思えて、僧都は「様を変え、世を遁れたとはいえ、髪を剃った法師でさえも、欲望が消えない者もいると言う。まして、女身であればどうなのであろうか。とはいえ還俗させることは、罪を作ることになりはしまいか」と、言いようもなく心が乱れました。「坂本に下るのは、今日明日にはとても無理でございます。月を経て後、文を届けさせましょう」と申しました。薫大将は心許ない僧都の返事にがっかりしましたが、「ぜひとも、今すぐお下りになられますよう」と催促するのも気が引けて、「よろしくお頼みいたします」と申して帰ることにしました。


続く


# by santalab | 2014-07-09 08:38 | 源氏物語


「酔い源氏」夢浮橋(その21)

薫大将は小君の帰りを今か今かと首を長くして待っていましたが、小君が気落ちして帰って来たので、甲斐がなかったのだと知って「行かせなければよかった。さぞや辛い思いもしたことだろう」と思いました。けれども「誰かが女を隠し置いているのではないか」と心の及ぶ限り思い続けたのは、薫大将に何か足りないものがあったのだろう、もし紫の上、そうでなくとも六条院【光源氏】の実の子であったならば。と本に書かれていたとか。


(終)


# by santalab | 2014-07-08 21:09 | 源氏物語

    

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