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「落窪物語」巻三(その72)

広くおもしろき池の、鏡のやうなるに、龍頭、楽人ども船に乗りて遊びたるは、いみじうおもしろし。上達部、殿上人は、居余るまで多かり。右の大臣おはしたり。被け物なむ、数知らず入りたり。中宮よりも、大袿おほうちきかさね、中納言殿より被け物十襲、様々に奉り給へば、宮の御達、蔵人も、皆物見むとて、罷でぬ。中納言、たちまちに御心地も止みて、めでたし。日一日、遊び暮して、事果てて、夜更けて、罷で給ふに、物被け給はぬなし。やむごとなきには御贈物添へて、し給へり。右の大臣、中納言殿に、いと賢き馬二つ、世に名高き箏の琴、奉り給ふ。御前の人々に従ひて物被け給ふ。腰差えさせ給ふ。越前の守、「このことばかりは、我が思ふやうにせよ」とて、当て給ひてければ、いと目安くしたり。二三日ばかり、留め奉り給ひて、渡し奉り給ひける。女君、かくし給ふことを、いとうれしと思ひ聞こえ給ふ。大将、いと甲斐かひありて思す。




広くて趣のある、鏡のような池に、龍頭([竜の頭を前に付けた船])を浮かべ、楽人([雅楽を演奏する者])を船に乗せて遊ぶのは、とても楽しいものでした。上達部([公卿])、殿上人は、船に乗れないほど多く集まりました。右大臣(左大将の父)もやって来ました。被け物([贈り物])を、数知れず持って来ました。中宮(左大将の妹)からも、大袿([ゆき・丈などを大きく仕立てた贈り物用の袿])十襲、中納言殿よりも被け物十襲と、数多く持ち寄ったので、宮(后宮。左大将の妹)の御達([宮中・貴族の家に仕える上級の女房])、蔵人([天皇の警備などを勤めた役人])も、皆見物しようと、やって来ました。右大臣は、たちまちに具合がよくなって、楽しみました。一日、遊んで、宴が終わり、夜が更けると、皆帰って行きましたが、被け物を賜らない者はいませんでした。特に親しい人たちには贈り物を添えて、見送りました。左大将は右大臣と、中納言殿に、とてもりっぱな馬を二匹、名高い箏の琴([箏])を、贈りました。左大将はこの二人の御前に参って被け物を贈りました。左大将は二人の腰をささえさせました。越前守(中納言の長男)は、「今回は、わたしの思うままにせよ」と申して、役を仰せ付かりましたが、無事終えることができてよかったと思いました。左大将は二三日ほど、二人を二三日、殿に留めてから、見送りました。


続く


by santalab | 2013-07-14 08:14 | 落窪物語

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