Santa Lab's Blog


「落窪物語」巻四(その6)

大将殿の北の方、聞き給ひて、いとあはれに思して、「北の方の聞こえ給ふこと、いとことわりなり。ここには、ただ何もかも、な賜びそ。君達にあまねく奉らせ給へ。まして、ここに誰も誰も住み付き給へるに、思はぬ方に侍らむ、いと見苦し。なほ、や奉らせ給へ」と責め申し給へば、大殿おとど「おのれは、え取らすまじ。おのれ死に侍らむ時、ともかくも心とし給へ」とて、さらに聞き給はず。よき帯など、たまさかにありけるなども皆大将殿に奉り給ふ。越前の守など、げに少し物しと思へれど、親の御気色得給ふ人の御有様、言ふべきにあらぬば、打ちも出でず。あるべき事ども、いとよくしたためて、大将殿の北の方、よろづにうれしく、御徳により面目ある目を見侍りつるを、返す返す申し給ひて、「捗々はかばかしからぬ女子どもの、いと数多あまた侍りつる、よくよく顧み給へ」と申し給ふ。「承りぬ。身の堪へむ限りは、いかで仕うまつらざらむ」とのたまへば、「いとうれしきこと」とのたまふ。「娘ども、この御言に従へ。君を思ひ奉れ」など、さかしくのたまふままに、いと弱くなり給へば、誰も誰もいみじく思し嘆く。




左大将殿の北の方(落窪の君)は、北の方の話を聞いて、とても哀れに思って、「北の方の申すことは、もっともなことです。わたしたちには、何も、与えなくて結構です。兄弟姉妹に残らず渡してください。まして、大納言殿には姉妹たちが皆住んでいます、そこを離れるなど思いもしなかったでしょう、とてもかわいそうです。そのほかのものも、すべて渡してください」と何度も申しましたが、大殿(大納言)は「わしは、他の者には与えたくないのじゃ。わしが死んだら、好きにすればよい」と申して、まったく聞く耳を持ちませんでした。よい帯など、めったにないようなものでもすべて左大将殿に差し上げました。越前守(大納言の長男)たちは、少し分けてほしいと思っていましたが、親(大納言)が大切にする人のためだと思えば、口に出すことはできませんでした。大納言はすべての物を、整理し終りました、左大将殿の北の方(落窪の君)は、どれもこれもうれしく思い、大納言の徳を得たことは名誉なことだと、何度も礼を言いました、大納言は「わしには取り立てて言うほどでもない娘が、とてもたくさんおるが、どうか大事に思ってほしい」と左大将の北の方に申しました。左大将の北の方(落窪の君)が「分かりました。命のある限り、大切にします」と答えると、大納言は「うれしいことじゃ」と言いました。「娘たちよ、今の言葉を聞いたか。落窪の君を疎かにしてはならぬ」などと、強い口調で申しましたが、次第に弱っていったので、誰かれもたいそう嘆き悲しみました。


続く


[PR]
by santalab | 2013-07-21 12:29 | 落窪物語 | Comments(0)

<< 「落窪物語」巻四(その7)      「平家物語」内裏女房(その6) >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧