Santa Lab's Blog


「落窪物語」巻四(その14)

大将殿「しうはあらぬ所々をこそは領じ給ひけれ。この家は、などか君達、北の方の御中には奉り賜はざりし。異所のあるか」とのたまへば、女君「さもなし。ここは、かう久しう年頃住み給はれば、得じ。北の方に奉りてむとなむ思ふ」とのたまへば、男君「いとよきこと。これは、君得給はずとも、おのれあれば、おはしなむ。皆、怨みの心もあらむ」と、うち語らひ給ひて、越前の守近う呼び寄せて、「そこに、その事どもは知らむ。など、いとここがちには見ゆるぞ。豪家とわづらはしがりてあるか」と、うち笑ひ給へば、守「さらに、さも侍らず。もと、物し給ひし時、皆、し置き、預け奉るなり」と申せば、「さかしうも、そ給ひけるかな。『ここに誰も誰も住みつき給ふめるを、何しにかは』と、ここにのたまふめればなむ。北の方、り給ふべし。この帯二つは、衛門の佐と、そこにと、一つづつ。美濃なる所の券と帯一つ、留めつる。無下に、さ、し置き給ひけむ御心ばへの、甲斐かひなきやうなれば」となむのたまへば、越前の守「いと不便なること。みづからし置き侍らぬことなりとも、殿になむ。知ろし召すべし。いはむや、さらに『我が、かく、し置く』など言ひ置き侍るにしたがひては。誰も誰も皆少しづつ分かたれ侍るめるものを」とて取らせねば、大将「怪しくも言ふかな。自らの心、僻様ひがざまひし置かばこそあらめ。かく見給へば、ここに得給ふ、同じこと。この君は、おのれあらむ限りは、さてものし給ひてむ。うち続き、幼き人々あれば、頼もし。うて、はやう四の君なむ、思ふ人少なきやうに物し給ふなるを、おのれ一向にり聞こえむと思ふ。その君たちの得給はむに添へられよ。今ニ所には、御夫たちになむつけて仕うまつるべき」とのたまへば、越前の守、かしこまり喜ぶ。「先づ、かくなむと物し侍らむ」とて立てば、「もし返しなどし給へむ、取りて物し給ふな。むつかし、同じことをのみ言へば」とのたまふ。「帯は、なほ、かくて、人に賜はせ、遣はせ給はむ」と申し給へば、「今用ならむりは物せむ。うとき人たちにしあらねば」とて、ひて取らせ給ふ。




左大将殿は「よい領地をお持ちですね。この家は、どうして娘たち、北の方に譲られなかったのですか。ほかに家をお持ちですか」と申すと、落窪の君は「ほかにはありません。ここは、北の方、姉妹たちが長く住んでいるのですから、いただくことはできません。北の方に差し上げてはどうでしょうか」と言いました、左大将殿は「それはよい。ここを、落窪の君がいただかなくとも、わたしがいるのだから、三条殿に住めばよいことだ。すべていただいたなら、恨む者も出てこよう」と、落窪の君と話して、越前守(故大納言の長男)を近くに呼び寄せて、「あなたも、分かっているでしょう。どうして、わたしばかり譲られるのですか。豪家と思って気をつかっているのでは」と申して、笑いました、越前守は「まったく、そのようなことはございません。父(大納言)が、遺言を申した時に、皆、分けて、わたしに預けたものなのです」と申すと、左大将は、「それは賢い、ことをなされました。『けれどもこの殿には故大納言のお子たちが皆住んでいるのに、どうしていただくことができましょう』と、落窪の君が申しておる。北の方に、お与えください。この帯二つは、衛門佐(故大納言の三男)と、あなたが、一つずつもらえばよい。わたしたちは美濃の荘園の券([荘園・田地・邸宅などの所有を証明する手形])と帯一つを、いただきましょう。無下に、故大納言殿が、分けてくださったお気持ちを、無駄にはできませんから」と申しました、越前守は「それは困ります。たとえ父が取り分けなかったとしても、左大将殿に差し上げるべき物なのですから。分かってくださいませ。申すまでもなく、『故大納言が、こうして、分けて置く』と申して取り置いた意思に背くことになります。わたしたちは皆少しずつ遺産を分けてもらっています」と言って左大将が返そうとする品々を受け取りませんでした、左大将が「そうおっしゃいますな。わたしは、故大納言の意思に背くとは思ってはいない。故大納言のお気持ちを知ることができたのであれば、わたしがいただいたも、同然のこと。落窪の君はわたしがいる限り、今まで通り暮らして行ける。わたしたちには、幼い子たちもいるのだから、後々の安心だ。むしろ、すぐにでも四の君(故大納言の四女)の、世話をする者もいないようだし、わたしがすべて面倒を見ようと思っているくらいだ。あなたたちが与えられた遺産の足しにしてほしい。二人(大君と中の君)には、夫に対して便宜を図ってあげよう」と申すと、越前守は、かしこまり喜びました。「さっそく、左大将殿の話を伝えましょう」と言って立ったので、左大将殿は「もし返されても、受け取らないでくれ。面倒だ、同じことを言うのは」と申しました。そして「帯は、やはり、今のまま、お主(越前守)が持っていてください、必要になれば人を遣ります」と申すと、越前守は「入り用になればすぐにお返しします。遠い間柄ではありませんから」と言いました、左大将は無理やり越前守に帯を受け取らせました。


続く


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by santalab | 2013-07-28 07:50 | 落窪物語 | Comments(0)

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