Santa Lab's Blog


「落窪物語」巻四(その30)

つとめて、少将を北の方呼び給ひて、みそかにのたまふ、「みづから渡りて聞こえむと思へども、見差したることありてなむ。かうかうのことをのたまふ、いかなるべきことにかあらむ。『心憎くはあれど、一人ある女には、思ひのほかなることもあり。この人、いとよき人なめり。誰も誰もよろしと思ひ給へることならば、ここに迎へ奉りて、ともかくもせむ』となむのたまふめる」とのたまへば、少将「いとも賢き仰せにこそ侍るなれ。悪しきことにても、殿のしかのたまはせむは、いなび聞こえさすべきにもあらず。増して、いとめでたきことにこそ侍るなれ。かくなむと物し侍らむ」とて、親の御許に行きて、「しかじかなむのたまふ。いみじうよきことなり。いかなる人なりとも、ただ今の時の大臣ばかりの、御娘のやうにてのたまひ逢はせむを、愚かには思はじ。面白の駒に、言ふ甲斐かひなく笑はれ、そしられ給ひしも、これにて恥隠し給へと、しか思しけるなめり。年は四十余りなむある。故大殿おとどおはして、初めてし給ふとも、かばかりのも、えし給はじ。親に増さりて、あはれに、とざまかうざまに、いたくよろしうなさむと思したる、限りなくうれしきこと。はやう四の君、かの殿に参らせ給へ」とのたまへば、北の方「我なからむ後に、かくてのみあるを、後ろめたなし、ただの受領のよからむをがなとこそ思ひつるに、増して上達部にもあなり。いといとうれしきことななり。かく細かに後見る、あはれなること。女君よりは殿こそ御心ばへ哀れなれ」と言へば、「殿も北の方をいみじう思ひこ聞こえ給ふ余りの、麻呂までは来るぞと聞こえ侍る時もあり。『まろを思さば、この腹の君たちを、男も女も、思ほせ』とこそ申し給へ。いみじきさいはひおはしける。数はらぬ影政かげまさらだに、女は見まほしくなむあるを、この殿は、すべて北の方より他に女はなしと思したり。内裏に参り給ひても、后の宮の女房たち、清げなるに、たわぶれに目見入れ給はず。夜中にも暁にも、掻き辿たどりてぞ罷出給ふ。女の、夫に思はれ給ふためしには、この北の方を、し奉るべし」など言ひて、「いかがのたまふと正身さうじみに聞かせ奉り給へ」とのたまへば、「四の君、渡り給へ」と呼べば、おはしたり。




翌朝、少将(故大納言の三男)を北の方(落窪の君)が呼び出して、こそこそ話すには、「わたしの方から訪ねようとも思いましたが、人に見られたらと思ってあなたを呼び出したのです。左大臣殿が四の君に似合いの方を見つけたと申しておりました。どうでしょうか。『失礼なことですが、女が一人でいれば、思いもしなかったことも起こるかもしれません。相手の方は、とてもいい人だということです。誰かれもよい人と思っているということですので、この殿に迎えて、四の君と逢わせたい』と申しておりました」と言うと、少将は「なんともありがたいお話です。たとえ悪い話であっても、左大臣殿の申したことです、お断りするわけには参りません。ましてや、とてもいい話ではありませんか。すぐに伝えましょう」と言って、親(北の方)の許を訪ねて、「左大臣殿がこうこう申しております。とてもいい話です。大臣である方が、我が娘のように思って逢わせようと言うのです、おろそかにはできません。面白の駒(四の君の前夫)のために、ただただ笑われて、ばかにされたのも、これで恥を隠せと、思っておられるのでしょう。相手の方の年は四十余りだということです。父(故大納言)が生きておられて、四の君が初婚であったとしても、これほどの方を、婿に迎えることはできなかったでしょう。親に増さり、四の君のことを思って、あれやこれやと、とても大切に思っていただけることは、限りなくうれしいことではありませんか。すぐにでも四の君を、左大臣殿へ参らせてください」と言うと、北の方は「わたしなき後、四の君が一人になることが、心配で、受領([実際に任国に赴任して政務を執った国司の最上席の者])のよい人を夫にと思っていましたが、それにも増して上達部([公卿と殿上人])ですか。とてもうれしいことです。これほど心細やかに後見([後ろだて])をしてくださるとは、ありがたいことです。女君(落窪の君)に比べて左大臣殿はなんてやさしい方なんでしょう」と申したので、少将は「左大臣殿が女君を大切にされているからこそ、わたしたちにも恩恵があると聞いています。落窪の君は『わたしを思ってくださるのなら、北の方の兄弟姉妹たちを、
男も女も、大切にしてください』と申しています。だからこそ幸もあるというものです。数にも入らぬわたし影政でさえ、女に逢いたいと思っているのに、左大臣殿は、北の方(落窪の君)に女はいないとでも思っているようです。内裏に参っても、后宮([皇后])の女房たちは、美しいにもかかわらず、冗談にも見ることはございません。夜中でも明け方であっても、殿に帰られるのです。夫に思われる妻の手本には、この北の方に、すべきでしょう」などと言って、「なんと言うか四の君本人に聞いてください」と言ったので、北の方は「四の君、ちょっとこちらへ」と呼びました、四の君がやって来ました。


続く


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by santalab | 2013-08-19 22:00 | 落窪物語 | Comments(0)

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