Santa Lab's Blog


「平家物語」千手前(その4)

兵衛ひやうゑすけ殿もまことにあはれに思はれければ、「そもそも平家を、頼朝がわたくしのかたきとは、夢々思ひ奉らず。ただ帝王ていわうおほせこそ重うさふらへ。さりながらも南都を滅ぼされたる伽藍の敵なれば、大衆だいしゆ定めてまうす旨もやあらんずらん」とて、伊豆いづの国の住人ぢうにん狩野かのの介宗茂むねもちにぞあづけられける。そのてい、冥土にて娑婆世界の罪人を、なぬ日七日に十王じふわうの手へ渡さるらんも、かくやと思えてあはれなり。されども狩野の介は、情けある者にて、いたう厳しうも当たり奉らず、やうやうに労はりまゐらせ、あまつさへ湯殿しつらひなんどして、御湯引かせ奉る。中将ちうじやう道すがらの汗いぶせかりければ、身を清めて失はれんにこそと思ひて、待ち給ふところに、ややあつて、年のよはひじふばかんなる女房にようばうの、色白う清げにて、髪のかかりまことに美しきが、目結めゆひ帷子かたびらに、染め付けの湯巻きして、湯殿の戸押し開けて参りたり。




兵衛佐殿(源頼朝)もあわれに思って、「そもそも平家を、わたしの敵とは、まったく思ってもいない。ただ帝王(後白河院)の命令は重いものである。また一方では南都([奈良])を滅ぼした伽藍([大寺・寺院])の敵であるから、大衆([僧])もきっと申すこともあるだろう」と言って、伊豆国の住人、重衡(平重衡しげひら。清盛の五男)を狩野介宗茂に預けました。その様子は、冥土([あの世])で娑婆世界([この世])の罪人を、七日毎に十王([冥土で、亡者を裁く十人の王])の手に渡されるように、思えてあわれでした。けれども狩野介は、情けのある者で、とても厳しく接することはなく、何かといたわって、その上に湯殿を用意などして、湯につからせました。中将(重衡)は道中で汗をかいたので、身を清めてから討たれようと思い、待っていると、しばらくあって、齢二十歳ばかりの女房で、色白く清らかで、髪がとても美しい者が、目結([絞り染め])の帷子([単衣の着物])に、染め付け([藍色の模様を染め出した着物])の湯巻き([湯にぬれるのを防ぐために衣服の上から腰に巻いた布])をして、湯殿の戸を押し開けて入って来ました。


続く


by santalab | 2013-08-21 07:33 | 平家物語

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