Santa Lab's Blog


「平家物語」千手前(その7)

それ何事にてもまうして、しゆを進め奉り給へ」と言ひければ、千手のまへ、酌をさし置き、「羅綺らき重衣ちよういたる、情けなきことを機婦きふねたむ」と言ふ朗詠らうえいを、一両返りやうへんしたりければ、三位中将、「この朗詠をせん人をば、北野の天神、毎日三度翔けつて、まぼらんと誓はせ給ふとなり。されども重衡は、今生こんじやうにては、はや捨てられ奉たる身なれば、助音じよいんしても何かせん。ただし罪障ざいしやう軽みぬべきことならば、従ふべし」とのたまへば、千手のまへやがて、「十悪じふあくと言へどもなほ引摂いんぜふす」と言ふ朗詠をして、「極楽願はん人は、皆涙の名号みやうがうを唱ふべし」と言ふ今様いまやうを、四五遍歌ひすましたりければ、その時中将ちうじやうさかづきかたぶけらる。千手の前賜はつて狩野かのの介に差す。




何でもおっしゃって、お酒をどうぞ」と言うと、千手前は、酌を置いて、「羅綺([薄衣と綾衣])の重衣([薄衣や綾衣の衣服でさえ重たそうに見えるというところから、なよなよとした女性の様])を無情に思って機婦(機織りのことらしい)を恨む」という朗詠([歌])を、一つ歌うと、三位中将(平重衡しげひら。清盛の五男)は、「この歌を歌った者を、北野天神(今の京都市上京区にある神社。主祭神はあの菅原道真)は、一日に三度翔けて、守ると誓ったそうだ。けれどもわたしは、今生([この世])では、すでに捨てられた身だから、助音([朗詠で、歌う人を助けて、声を添えて歌うこと])したところで仕方がない。それでも罪障([往生・成仏の妨げとなる悪い行為])が少しでも軽くなるなら、共に歌おう」と言いました、千手前はすぐに、「十悪([十の罪悪])といえども引摂([人の臨終の時、阿弥陀仏が来迎して極楽浄土に導くこと])してくださる」という歌を歌って、「極楽を願う人は、皆涙を流し名号([仏の名])を唱えなさい」という今様([新様式の歌謡])を、四五遍歌い終わると、その時重衡は酒を飲みました。千手前は杯を受け取って狩野介(狩野宗茂むねもち)に杯を渡して酒を注ぎました。


続く


by santalab | 2013-08-24 07:50 | 平家物語

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