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Santa Lab's Blog


「落窪物語」巻四(その38)

四の君、まだとばりの内に寝給へり。北の方「起き給へ」と起こし給ふほどに、その文、持て来たり。男君、取り給ひて、「先づ見まほしけれど、隠さむと思すことも書きたらむ、とてなむ。後には必ず、見せ給へ」とて、几帳きちやうの内に差し入れ給へば、北の方、取りて奉れ給へど、手ふとしも取り給はず。「さは、読み聞こえむ」とて引き開け給ふ。四の君、かの初めの面白が書き出だしたりし文を思ふに、また、さもやあらむ、と胸潰れて思ふに、読み給ふを聞けば、

「あふことの ありその浜の まさごをば けふ君思ふ 数にこそ取れ

いつの間に恋の」となむありける。「御返り、や聞こえ給へ」とあれど、いらへもし給はず。大臣おとど「その文しばし」と、責めてのたまへば、「何のゆかしう思すらむ」とて、また差し入れ給ふ。「早や早や」と、硯、紙、具して、責め給ふ。四の君、返り言も、この殿見給ひつべかなりと、いと恥づかしくして、えとみに書き給はず。「あな見苦し。早や早や」とのたまへば、物も思えで書く。
われならぬ こひの藻おほみ ありそうみの 浜のまさごは 取りつきにけむ

とて、引き結びて、出だし給へれば、大臣「あなゆかしのわざや、今日の返り言は。見で止みぬるこそ、口しけれ」と、言ひ居給へる様、いとをかし。使ひに物被げさせ給ふ。




四の君は、まだ帳([室内や外部との境などに垂らして、区切りや隔てとする布])の内で寝ていました。北の方(落窪の君)が「起きてください」と言って起こすと、使いが帥殿の文(後朝きぬぎぬの文)を、届けに来ました。左大臣殿が、受け取って、「最初に見たいと思ったが、見られたくないと思っていることが書いてあるかもしれない、と開けずに持って来た。あなたが読んだ後、見せてほしい」と申して、几帳([間仕切りや目隠しに使う屏障具])の中にさし入れると、北の方(落窪の君)は、文を取って四の君に差し出しましたが、四の君は受け取りませんでした。北の方は「それならば、読んであげます」といって文を開けました。四の君は、初めての結婚で面白の駒が書いた文を思い出して、また、同じことが書いてあるかもしれないと、胸が潰れたように思っていましたが、北の方が読むのを聞いて、

「あなたに逢って、今朝あなたを想う気持ちは、荒磯ありそ浜(東尋坊=福井県坂井市あたりの海。歌枕)の荒波が真砂をさらう数ほどです。

いつの間にあなたに恋したのか」と書いてありました。北の方は「返事を、早くなさいませ」と言いましたが、四の君は返事もしませんでした。左大臣殿が「その文を見せてくれ」と強く申すと、北の方は「あなたも見たいのですね」と言って、左大臣殿に文を差し出しました。北の方は「早く、早く返事を」と言って、硯、紙を、用意して、四の君に催促しました。四の君は、返事も、左大臣殿に見られると思えば、とても恥ずかしくて、なかなか返事を書くことができませんでした。北の方が「返事を出さないのはよくないわ。早く早く」と言ったので、四の君はとにかく返事を書きました。
わたし以外に、恋の経験など多くおありでしょう。すでに、荒磯ありそ浜の真砂など、取り尽くしてしまわれたのではないですか。

と書いて、文を引き結んで、差し出すと、左大臣殿は「気になるな、今日の返事は。見ないのが、惜しまれる」と、申される様子が、とてもおかしいのでした。左大臣殿は使いに贈り物を与えました。


続く


by santalab | 2013-08-28 20:18 | 落窪物語

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