Santa Lab's Blog


「落窪物語」巻四(その39)

そちは、この二十八日になむ、船に乗るべき日、取りたりければ、出で立ち、さらにいと近し。


かくて左の大臣おとどには、三日の夜のこと、今初めたるやうに設け給へり。「人は、ただかしづき労はるになむ、夫の心ざしも、かかるものをと、いとほしきこと添はりて思ひなる。細かにと口入れ給へ。ここにて事始めしたることなれば、愚かならむ、愛ほし」とのたまへば、女君、昔我を見はじめ給ひしこと、思ひ出でられて、「いかに思ほしけむ。阿漕あこきは、心憂き目は見聞かじと思ほえて。いかに、麻呂見初め給ひしり、始めて、やむごとなくのみ思ほし増さりけむ」とのたまへば、殿、いとよく微笑ほほゑみ、「さて、空言ぞ」とのたまひて、近う寄りて、「かの『落窪』と、言ひ立てられて、さいなまれ給ひし夜こそ、いみじき心ざしは、増さりしか。その夜、思ひ臥したりし本意の、皆叶ひたるかな。これが当に、いみじうちようじ伏せて、後には喜び惑ふばかり顧みばや、となむ思ひしかば、四の君のことも、かくするぞ。北の方は、うれしと思ひたりや。景純かげずみなどは思ひ知りためり」などのたまへば、女君「かしこにも、うれしとのたまふ時、多かめり」とのたまふ。




帥殿(四の君の夫)は、今月二十八日に、船に乗ることが、決まったので、旅立ちは、さらに近くなりました。


左大臣殿は、三日夜の餅([三日の餅]=[婚礼後三日目の夜に、妻の家で新郎・新婦に食べさせた祝いの儀式])を、四の君が初めて結婚するように盛大に準備しました。「妻が、夫をただただ大切にお世話すれば、夫(帥殿)の気持ちも、同じように、妻を愛しく思うものです。心細やかに尽くしなさい。この結婚はわたしが言い出したことだから、疎かにすることは、憚られるのだ」と申すと、北の方(落窪の君)は、昔わたしを初めて見た時のことを、思い出して、「わたしの時はどう思われましたか。阿漕は、わたしが悲しい目に遭わないようにしてくれました。なぜ、わたしを初めてご覧になった時より、ずっと、わたしのことを大切にしてくださったのでしょうか」と言うと、左大臣殿は、大きく笑って、「はじめは、冗談だった」と申して、北の方に近く寄って、「『落窪の君』と、言われて、北の方(故大納言の妻)に言い罵られていた夜に、あなたへの想いが、増さったのだ。その夜、あなたを思い添い寝してわたしの思いは、すべて叶った。そのせいで、あなたが北の方にいじめられたので、後には喜び惑うばかりのことをしてあげよう、と思ったのだ、四の君のことも、同じようにしようと。北の方(故大納言の妻)はうれしく思うだろうか。景純(故大納言の長男)などは分かっているようだが」と申すと、左大臣殿の北の方も「わたしにも、うれしいと、何度も申しております」と答えました。


続く


by santalab | 2013-08-29 20:15 | 落窪物語

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