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「落窪物語」巻四(その43)

少将、左の大臣おとどに参りて、北の方に、「かうかうなむ侍りつる」。そのことは言はで、「恋しく見まほしくし給ふ」と語れば、北の方「ことわりにこそはあめれ。や渡し奉り給へかし」、少将「そちも、渡れとも思ひ給はざらむに、ふと物し給ひなむ、便びんなかるべき」と言へば、北の方「それも然るべきこと。さらば御みづからおはして、帥の聞かむ折に、御消息とて『いと恋しくなむ思え給ふを、あからさまにもまれ、渡り給へ。遠くおはすべきほども、いと残り少なうなりになれば、いとあはれに心細うなむ。これよりまれ、出で立ち給へ、京におはせむ限りは見奉らむ』とのたまふと聞こえ給はむにつけて、そこに、自づから気色見えなむ。それに従ひて、渡りも迎へもし給へ。そのちひさき君は、その子とは、な知らせさせ給ひそ。御供にてて下り給ふとも、『一人おはせむが心細きに』とて、北の方の添へ奉らせ給ふにてありなむ」とのたまへば、少将、いと思ふやうに、思ひ遣りあり、めでたくぞのたまふ、うれしうあらまほしき御心かな、我が親の、非道に、ただ腹立ち給ふこそ、物言ふ甲斐かひなけれ、と思ひて、「いとよくのたまはせたり。さらば、しか物し侍らむ」とて、殿へ行くも苦しけれど、恋しと思ひ給ふにこそあらめ、と思ひて。




少将(故大納言の三男)は、左大臣殿に参って、北の方に、「四の君が母上と娘にに会いたいそうです」と言いました。母のことは言わずに、「恋しくて会いたい」と書いた四の君のことを話せば、北の方も「当然のことでしょう。すぐに母上と姫君をこちらにお連れして」と答えました、少将は「帥殿(四の君の夫)は、北の方娘が訪ねて来ることを思ってもいないところへ、訪ねるのは、よろしくありません」と言うと、北の方も「それはそうですね。ならばあなた自ら帥殿を訪ねて、帥殿に、母上から文があったと言って『四の君をとても恋しく思います、ほんのわずかの間でも、わたしを訪ねてほしい。遠く離れて行く日まで、残りわずかとなってしまいました、とても心細いのです。今すぐにでも、訪ねてください、あなたが京にいる間に会いたい』と書いてあったことを話せば、きっと、帥殿は返事なさいます。帥殿の意向に従って、北の方を訪ねるもよしこちらへ迎えてもよいでしょう。それから四の君の幼い子ですが、四の君の子であると、帥殿には知らせないでください。供として下るのは、『一人で下るのが心細くて』、北の方が付けてくれたのです」と話しなさいと言うと、少将は、かねがね思っていたことですが、左大臣殿の北の方(落窪の君)には思いやりがあり、気を使ってくださると、うれしくも理想的な人だと思い、我が親(故大納言の北の方)が、道理に外れて、ただただ腹立ちするのを、情けなく思って、「ありがたいお言葉です、ならば、そのようにいたしましょう」と言って、帥殿を訪ねるのも気が引けましたが、母上が恋しく思っているから、と思って行くことにしました。


続く


by santalab | 2013-09-02 06:51 | 落窪物語

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