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「平家物語」維盛入水(その4)

かの驪山宮りさんきうの秋のゆふべの契りも、つひには心を砕くはしとなり、甘泉かんせん殿の生前しやうぜんの恩も、はりなきにしもあらず。松子梅生しようしばいせい生涯しやうがいの恨みあり。等覚とうがく十地じふぢなほ生死しやうじおきてに従ふ。たとひ君長生ちやうせいの楽しみに誇り給ふとも、この御恨みはつひになくてしもやさふらふべき。たとひまた百年のよはひを保たせ給ふとも、この御別れは、いつもただ同じことと思し召さるべし。第六天の魔王まわうと言ふ外道げだうは、欲界の六天を皆我がものとりやうじて、中にもこの界の衆生しゆじやうの、生死しやうじに離るることをしみ、あるひはとなり、あるひはをつととなつて、これを妨げんとするに、三世さんぜの諸仏は、一切衆生を一子のごとくに思し召して、かの極楽浄土じやうどの不退のに進め入れんとし給ふに、妻子は無始曠劫むしくわうごふよりこの方、生死に輪廻りんゑするきづななるがゆゑに、仏は重う戒め給ふなり。さればとて御心弱う思し召すべからず。




離山宮(唐太宗は西安の南に驪山宮を造ったが、民の苦しみを思って造営を中止したらしい)の秋の夕べの契り([秋の契り]=[男女間の約束]。唐玄宗と楊貴妃のことかしらん)も、心配の種となり、甘泉殿の生前の恩([漢宮廷]。漢武帝は、李夫人を亡くして嘆き悲しみ、甘泉殿に夫人の姿を描かせたらしい)も、終わりがないということはありません。松子([赤松子]=[中国上古の仙人らしい])梅生([梅福]=[前漢の人で、最後は仙人になったそうな])も生涯に恨みを残しました。等覚([仏道修行の階位の一つ。最高位])十地([仏道修行の階位で等覚の下位にあたる])でさえ生死の掟に従わなければなりません。たとえあなたが長生きしたとしても、死から逃れることなどできないのです。たとえこれから百年の寿命を保ったとしても、別れは、同じようにやってくるのです。第六天([他化たけ自在天]=[他の欲望を自在に受けて楽しむことができる所らしい])の魔王(魔王が第六天の王らしい)を信じない者たちは、欲界の六天を我がものとして、中でもこの世の衆生が、死に別れることを惜しみ、妻となり、または夫となって、これを妨げようとします、三世([前世・現世・来世])の諸仏は、すべての衆生を我が子のように思って、極楽浄土の不退(極楽浄土から離れないこと)の地に導こうとしますが、妻子は無始曠劫([始めがわからないほどの遠い過去])より、生死輪廻([生ある者が迷妄に満ちた生死を絶え間なく繰り返すこと])につなぎとめようとするために、仏は妻子を持つことを強く戒めるのです。ですからそんなに心細く思うことはありません。


続く


by santalab | 2013-09-17 06:49 | 平家物語

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