人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Santa Lab's Blog


「平家物語」勝浦(その3)

判官親家ちかいへを召して、「ここをばいづくと言ふぞ」と問ひ給へば、「勝浦とまうさふらふ」。判官笑つて、「色代しきだいな」とのたまへば、「一定いちぢやう勝浦ざふらふ。下郎げらふまうし安きままに、勝浦かつらとは申せども、文字には勝浦と書いてさふらふ」と申しければ、判官なのめならずに喜び給ひて、「あれ聞き給へ殿ばら、いくさしに向かふ義経が、勝浦に着くめでたさよ。もしこの辺に平家の後ろ矢射つべき仁はたれかある」とのたまへば、「阿波あはの民部成良しげよしおとと桜庭さくらばの介良遠よしとほとてさふらふ」とまうす。「いざさらば蹴散らしてとほらん」とて、近藤六が勢の百騎ばかりが中より、むまや人をすぐつて、三十騎ばかり、我が勢にこそ具せられけれ。良遠よしとほじやうに押し寄せて見給へば、三方さんばうは沼、一方いつぽうは堀なり。堀の方より押し寄せて、時をどつとぞ作りける。城の内のつはものども、「ただ射捕れや射捕れ」とて、差し詰め引き詰め散々に射けれども、源氏の兵どもこれを事ともせず、堀を越え、兜のしころかたぶけて、をめき叫んで攻めければ、良遠よしとほ敵はじとや思ひけん、いへの子郎等らうどうどもに防ぎ矢射させ、我が身は屈竟くつきやうの馬を持つたりければ、それにうち乗り、稀有けうにして落ちにけり。残り留まつて防ぎ矢射ける兵ども、二十にじふ余人が首斬りかけさせ、軍神いくさがみまつり、よろこびの時を作り、「門出よし」とぞよろこばれける。




判官(源義経)は親家(近藤親家)を御前に呼んで、「ここは何という所だ」と訊ねると、親家は「勝浦と申すところです」と答えました。判官は笑って「色代([お世辞])を申すな」と申すと、親家は「いいえ本当にかつらというところです」と言ってから、「勝浦と読みますが、文字では勝浦と書きます」と答えると、判官はたいそうよろこんで、「聞いたか殿たちよ、これから戦に打って出るわたし義経が、勝浦に着くというのは何と縁起がよいことであろう。もしやこの辺りに平家に味方する後ろ矢射る者([裏切り者])はいるか」と申すと、親家は「阿波民部成良(田口成良。阿波民部大夫)の弟で、桜庭介良遠(桜庭良遠=田口良遠)と言う者がおります」と答えました。判官は「ならば蹴散らして通るぞ」と申して、近藤六(親家)の勢百騎ばかりの中から、馬や人を選んで、三十騎ばかり連れて行くことにしました。良遠(田口良遠)の城に押し寄せて見ると、三方は沼で、残る一方は堀でした。判官(義経)は堀の方から押し寄せて、時の声をどっと上げました。城の中の兵たちは、「射よ射よ」と言って、ひっきりなしに矢を射ましたが、源氏の兵たちはこれをものともせず、堀を越え、兜の錏([兜の鉢の左右・後方につけて垂らし、首から襟の防御とするもの])でしっかり防御して、喚き叫んで攻めました、良遠(田口良遠)は敵わないと思って、家の子([一族の者])郎等([家来])たちに防ぎ矢([敵の進撃を阻止するために射る矢])を射させて、自分は屈竟([勝れていること])馬を持っていたので、それにまたがり、稀有([非常識なこと])にして逃げてしまいました。判官は残り留まって防ぎ矢を射ていた兵たち、二十人余りの首を斬らせて、軍神([八幡大神])に奉納し、勝利の時の声を上げ、「幸先よし」とよろこびました。


続く


by santalab | 2013-10-18 07:17 | 平家物語

<< 「平家物語」鹿谷(その1)      「承久記」頼家実朝昇進並びに薨... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧