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「平家物語」勝浦(その5)

源氏すでに淀川尻よどがはじりに出で浮かうでさふらへば、定めてそれをこそ告げまうされ候ふらめ」と申しければ、判官、「げにさぞあるらん。その文奪へ」とて、持つたる文を奪ひ取らせ、「しやつからめよ。罪作りに首な斬つそ」とて、山中の木に縛り付けさせてこそとほられけれ。判官さてかの文を開けて見給へば、まことに女房の文と思しくて、「九郎はすすどをのこなれば、いかなる大風おほかぜ大波をも嫌ひさぶらはで、寄せ候ふらんと思え候ふ。あひ構へて御勢ども散らさせ給はで、よくよく用心せさせ給へ」とぞ書かれたる。判官、「これは義経に、天の与へ給ふ文や。鎌倉殿に見せ申さん」とて、深うをさめてぞ置かれける。明くる十八じふはち日の寅の刻に、讃岐の国引田ひけたと言ふ所に落ち着いて、人馬の息をぞ休めける。それより白鳥しろとり丹生屋にふのや、打ち過ぎ打ち過ぎ、屋島のじやうへぞ寄せ給ふ。判官また親家ちかいへを召して、「これより屋島へのたちは、いかやうなるぞ」と問ひ給へば、「知ろし召されねばこそ。無下に浅間に候ふ。しほの引て候ふ時は、くがと島とのあひだは、むま太腹ふとばらも浸かり候はず」と申す。「かたきの聞かぬ先に、さらばう寄せよや」とて、高松の在家に火をかけて、屋島の城へぞ寄せられける。




源氏はすでに淀川尻淀川尻よどがはじりに船を浮かべておりますので、きっとそれを知らせるためでしょう」と答えると、判官(源義経)も、「きっとそうだろう、その文を奪い取れ」と申して、男が持っていた文を奪わせて、「やつを縛り付けろ、罪作りに首を斬るでない」と申して、山中の木に男を縛りつけて通り過ぎました。判官が文を見れば、確かに女房からの文と思われて、「九郎(源義経)は抜け目のない男ですから、どんな大風大波もものともせず、屋島(今の香川県高松市)を攻めると思われます。よく考えて勢を分散させずに、よくよく用心なさいませ」と書いてありました。判官は、「これはわたし義経に、天が与えた文である。鎌倉殿(源頼朝)にお見せしなくては」と申して、大切にしまいました。明くる十八日の寅の刻([午前四時頃])に引田(今の香川県東かがわ市)に着いて、人馬を休ませました。そこから白鳥(今の香川県大川郡白鳥町)、丹生屋(今の香川県大川郡丹生村)を、次々に過ぎて、屋島の城に近づきました。判官はまた親家(近藤親家)を呼んで、「ここから屋島の館へは、どうやって行けばよいか」と訊ねると、親家は「知っておられませんか。ここより屋島へはまったく浅くございます。潮が引けば、陸と島の間は、馬の太腹([馬の腹の一番低い部分]さえ浸かりません」と答えました。判官は「敵に知られる前に、ならば急ぎ攻めよう」と申して、高松の在家に火を放ち、屋島の城に攻め込みました。


続く


by santalab | 2013-10-20 07:59 | 平家物語

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