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「平家物語」座主流(その3)

されども陰陽をんやうかみ安倍あべ泰親やすちかまうしけるは、「さばかりの知者の、明雲めいうんと名乗り給ふこそ心得ね。うへには日月じつげつの光を並べ、下に雲あり」とぞ難じける。任安にんあん元年二月にんぐわつ二十日の日、天台座主にならせ給ふ。同じき三月じふ五日御拝堂はいだうあり。中堂ちうだう宝蔵ほうざうを開かれけるに、種々の重宝ちようほうどもの中に、はう一尺の箱あり。白い布にて包まれたり。一生いつしやう不犯ふぼんの座主、かの箱を開けて見給ふに、黄紙わうしに書ける文一巻いつくわんあり。伝教でんげう大師、未来の座主の名字みやうじを、かねて記し置かれたり。我が名のあるところまでは見て、それより奥をば見給はず、元の如く巻きかへして置かるる習ひなり。さればこの僧正も、さこそはおはしけめ。




けれども陰陽頭安倍泰親(安倍氏は陰陽師として有名です。泰親は安倍晴明の子孫です)が申すには、「それほどの知者([悟りの智慧を開いた者])が明雲と名付けたのは納得がいきません。上(明)は日と月の光を並べ、下には雲があるということですから」と非難しました。明雲は任安元年(1166)二月二十日に、天台座主に就きました。同じ三月十五日に拝堂([住持、座主などが交替した時、寺院本堂の本尊仏を、新任の僧が拝礼する儀式])がありました。数々の重宝の中に、一尺四方(一尺は約30cm)の箱がありました。白い布で包まれていました。一生不犯([仏教の戒律を守り、一生を通して異性と交わらないこと])の座主が、この箱を開けて見ると、黄紙([黄麻紙]=[ キハダで染めた麻紙。奈良時代、多く写経用に用いられた])に書いた文が一巻きありました。伝教大師(最澄)が、未来の座主の名を、書いておいたものでした。座主は自分の名が書いてあるところまで見て、それより後ろは見ずに、もとのように巻き戻しておくのが習慣でした。明雲も、同じようにしました。


続く


by santalab | 2013-10-23 07:56 | 平家物語

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