人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Santa Lab's Blog


「平家物語」少将都帰(その2)

その墓をたづねて見給へば、松の一叢ひとむらある中に、甲斐甲斐かひがひしう壇をついたることもなく、土の少し高き所に向かひ、少将せうしやう袖かき合はせ、生きたる人に物をまうすやうに、泣く泣くかきくどいて申されけるは「とほき御守りと成らせおはしましたることをば、島にてもかすかに伝へうけたまはつてさふらひしかども、心に任せぬ憂き身なれば、急ぎ参ることも候はず。成経なりつねかの島へ流されて後の頼りなさ、一日片時へんしの命も有り難うこそ候ひしかども、さすが露の命は消えやらで、この二年ふたとせを送つて、今召しかへさるるうれしさも、さることにては候へども、父大納言殿のまさしうこの世に渡らせ給はんを、見参らせても候はばこそ、さすが命の永き甲斐も候はめ。これまでは急がれつれども、今日けふより後は急ぐべしとも思えず」とて、かきくどいてぞ泣かれける。まことに存生ぞんじやうの時ならば、大納言入道にふだう殿こそ、いかにとものたまふべきに、しやうを隔てたる習ひほど、恨めしかりけることはなし。苔の下にはたれか答ふべき、ただ嵐に騒ぐ松の響きばかりなり。




成親(藤原成親なりちか)の墓を探すと、松が茂っている中に、きちんと壇を造ることもなく墓がありました、成経(藤原成経なりつね。成親の子)は土の少し高くなった所に向かって、少将(成経)は袖を重ね合わせて、生きた人に話すように、泣きながらしきりに申すには「遠い場所で守っておられることは、島(鬼界が島)でもかすかに伝え聞いておりましたが、心のままにならない憂き身でしたので、急ぎ参ることができませんでした。わたしは鬼界が島に流されてからというもの心細く、一日どころか片時の命も有り難く思っていましたが、はかない命は消えずに、この二年間を過ごして、今帰されたうれしさは、確かにありますけれども、父大納言殿(成親)がもうこの世にはおられないことを、こうして見て思うと、命永らえた甲斐もありません。ここまでは急ぎ参りましたが、今日からは急ぐこともないように思えます」と言って、訴えては泣きました。もし存命であったならば、父もきっと、何か言ってくれるでしょうが、命を隔てられた今、これほど恨めしいことはありませんでした。苔の下では誰も答えてくれません。ただ嵐に音を立てる松の音だけでした。


続く


by santalab | 2013-10-29 07:52 | 平家物語

<< 「平家物語」少将都帰(その3)      「平家物語」少将都帰(その1) >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧