また都には、源三位入道の孫右馬権守頼茂とて内裏の守護にてありけるを、これも源氏なる上、頼光が末葉なりと思し召して、西面の者どもに仰せて、させる罪なきを討たせられける。同じく子息頼氏を生け捕られけるこそ不憫なれ。陣頭に火をかけて自害してけり。温明殿に付きてけり。内侍所如何なり給ひけんとおぼつかなし。
また都では、源三位入道(源頼政孫右馬権守頼茂(源頼茂)という者が内裏の守護をしていましたが、彼も源氏である上に、頼光(源頼光)の末葉([子孫])であると思い、西面([西面の武士]=[院の西に勤務した武士])たちに命じて、罪もありませんでしたが討たせたのでした。同じく頼政の子息であった頼氏(源頼氏。源頼政の五男らしい)を生け捕ろうとしましたが残念なことになりました。頼氏は陣頭([軍勢の統率者])に火をかけて自害してしまいました。火は温明殿([平安京内裏十七殿の一。神鏡を安置した所])に燃え移りました。内侍所([八咫鏡])がどうなるのかと心配でした。
(続く)