信連これを見つけて、「あな浅まし。さしも君の御
秘蔵の御笛を」と
申して、今五
丁が内にて追つ付いて
参らせたり。宮
斜めならず
御感あつて、「我死なば、この笛をば、御
棺に入れよ」とぞ
仰せける。「やがて御供仕れ」と仰せければ、
信連申しけるは、「ただ今あの御所、
官人どもがお迎ひに参り
候ふなるに、人
一人も候はざらんは、むげに口
惜しく存じ候ふ。その
上あの御所に、信連が候ふと申すことをば、
上下皆知つたることでこそ候へ。
信連(長谷部信連)は笛(小枝)を見つけて、「なんということだ。あれほど君(高倉宮)が大切にしていた笛なのに」と言って、五丁([丁]=[町]で約109m)の間に追い付いて届けました。高倉宮はとてもうれしく思って、「わたしが死ねば、この笛を、棺に入れてくれ」と言いました。「すぐに供をせよ」と命じれば、信連(長谷部信連)が言うには、「今にも御所に、官人がやって来ると思いますが、人一人いないのが、とても悔しいのです。その上あの御所に、わたしがいるということは、身分の上下なく皆知っていることです。
(続く)