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「平家物語」鵺(その5)

宇治うぢの左大臣殿これを賜はり継いで、頼政よりまさばんとて、御前のきざはしを中らばかり下りさせ給ふ折節をりふし、頃は卯月うづきとを日あまりのことなれば、雲居くもゐ郭公くわつこうこゑ三声音れてとほりければ、左大臣殿、

ほととぎす 名をも雲居に あぐるかな

おほせられかけたりければ、頼政右の膝をつき、左の袖を広げて、月を少し側目そばめにかけつつ、
弓張り月の 入るにまかせて

と仕り、御剣ぎよけんを賜はりて罷り出づ。この頼政のきやうは武芸にも限らず、歌道かだうにもまた優れたりとぞ、時の人々感じ合はれける。さてかの変化へんげの物をば、うつほ舟に入れて流されけるとぞ聞こえし。また応保おうほうの頃ほひ、二でうゐん御在の御時、ぬえと言ふ化鳥けてう禁中きんちうに鳴いて、しばしば宸襟しんきんを悩まし奉ることありけり。




宇治左大臣殿(藤原よりなが)が賜わり継いで、頼政(源頼政)に与えようと、御前の階段を途中まで下りた時に、頃は卯月(陰暦四月)十日過ぎのことでしたので、禁中をほととぎすが二声三声鳴きながら飛んで行きました、頼長は、

ほととぎすが禁中で鳴くように、お主もすっかり名を上げたな。

と仰せられると、頼政は右の膝をついて、左の袖を広げて、月を少し横目で見て、
弓張り月(三日月のことですが十日過ぎのことなので、上弦の月ですね)が入る所を射たら、たまたま当たっただけです。

と詠んで、剣を賜って出て行きました。頼政卿は武芸だけに留まらず、歌道にも優れていると、時の者たちは思いました(頼政には、「源三位頼政集」という「家集」があります)。さて変化の物は、うつほ舟(木をくり抜いて作った舟らしい)に入れて流したということです。応保(二条天皇の御時(1161~1163))の頃、二条院が在位していた時に、鵺(トラツグミ)という化鳥が、禁中([内裏])で鳴いて、宸襟([天皇の心])を悩ませることがありました。


続く


by santalab | 2013-11-08 07:48 | 平家物語

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