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「平家物語」三井寺炎上(その3)

かかるめでたき聖跡せいぜきなれども、今は何ならず。顕密けんみつ須臾しゆゆに滅びて、伽藍さらに跡もなし。三密道場だうぢやうもなければ、れいこゑも聞こえず。一夏いちげの花もなければ、閼伽あかの音もせざりけり。宿老しゆくらう碩徳せきとくの名師は、行学ぎやうがくおこたり、受法じゆほふ相承さうじようの弟子は、また経教きやうげうに別れんだり。寺の長吏ちやうり円恵ゑんけい法親王ほつしんわうは、天王てんわう寺の別当べつたうをもとどめられさせ給ふ。そのほか僧綱そうがうじふ三人、欠官けつくわんせられて、皆検非違使にあづけらる。堂衆だうじゆ筒井つつゐ浄妙じやうめう明秀めいしうにいたるまで、三十余人流されけり。「かかる天下てんがの乱れ、国土の騒ぎ、ただごととも思えず、平家の世のすゑになりぬる先表ぜんべうやらん」とぞ人まうしける。




このようにいわれある聖跡([聖人の旧跡])でしたが、今は何も残っていませんでした。顕密([顕教=密教以外の仏教と密教])はたちまち滅んで、伽藍([寺院の建物])は跡方もなくなりました。三密([密教で、身・・意の三業さんごふ])道場もなければ、鈴の音も聞こえませんでした。一夏([僧が寺院にこもって修行をする夏の間])の花もなければ、閼伽水([仏に手向ける水])の音もありません。宿老碩徳([年老いて経験を積んだ高徳の僧])の名高い法師たちは、行学([修行と学問])を休み、受法([弟子の僧が師から法を受けること])を相承([弟子が師から、学問・技芸・法などを次々に受け継ぐこと])の弟子たちは、経教([経文に説かれている教え])から離れました。三井寺の長吏([寺の長として、寺務を統轄した役僧])であった円恵法親王(後白河院の第四皇子らしい)は、天王寺の別当([長吏])も止められました。そのほかに僧綱([僧正・僧都・律師])十三人が、欠官([官職を解かれること])させられて、皆検非違使に預けられました。堂衆([下級の僧])は筒井浄妙([浄妙坊の寺法師])明秀にいたるまで、三十人余りが流罪になりました。「このたびの天下の乱れ、国土の騒ぎは、ただごととは思えない、平家の世も末になる前ぶれではないか」と人は申しました。


続く


by santalab | 2013-11-09 07:36 | 平家物語

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