去るほどに同じき九月二日の日、相模の国の住人、大庭の三郎景親、福原へ早馬をもつて申しけるは、「去んぬる八月十七日、伊豆の国の流人前の兵衛の佐頼朝、舅北条四郎時政を語らうて、伊豆の国の目代、和泉の判官兼高を、山木が館にて夜討ちに討ち候ひぬ。その後土肥、土屋、岡崎を始めとして三百余騎、石橋山に立て籠もつて候ふところを、景親御方に心ざしを存ずる者ども、一千余騎を引率して、押し寄せて散々に攻め候へば、兵衛の佐わづか七八騎に討ちなされ、大童に戦ひなつて、土肥の椙山へ逃げ籠り候ひぬ。畠山五百余騎で、御方を仕る。三浦の大介が子ども、三百余騎で源氏方をして、湯井小坪の浦で攻め戦ふ。畠山戦に負けて武蔵の国へ引き退く。その後は畠山が一族、河越、稲毛、小山田、江戸、葛西、総じて七党の兵ども、ことごとく起こり合ひ、都合その勢二千余騎、三浦衣笠の城に押し寄せて、一日一夜攻め候ひしほどに、大介討たれ候ひぬ。子どもは皆久里浜の浦より舟に乗つて、安房上総へ渡りぬとこそ、人申しけれ。
やがて同じ九月二日の日、相模国の住人、大庭三郎景親(大庭景親)が、福原へ早馬に乗ってやって来て申すには、「去る八月十七日、伊豆国の流人前兵衛佐頼朝(源頼朝)が、舅の北条四郎時政(北条時政。頼朝の北の方政子の父)を味方につけて、伊豆国の目代([国守の代理人])、和泉判官兼高(和泉兼高)を、山木(今の静岡県伊豆の国市山木)の舘で夜討ちにしました。その後土肥(土肥実平)、土屋(土屋宗遠。実平の弟)、岡崎(岡崎義実)をはじめとして三百騎余りで、石橋山(神奈川県小田原市にある山)に立て籠もっていました(石橋山の合戦です)が、景親方は心の通い合った者たち、一千騎余りを引き連れて、押し寄せて散々に攻めたので、頼朝方はわずか七八騎に討ちとられて、死に物狂いで戦い、土肥椙山(今の神奈川県足柄下郡湯河原町あたりの土肥椙山巌窟)へ逃げ籠りました。畠山(畠山重忠。重能の子)は五百騎余りで、御方に付きました。三浦大介(三浦義明)の子どもたちも、三百騎余りで源氏方に付いて、湯井(今の神奈川県鎌倉市由比ヶ浜)小坪の浦(今の神奈川県逗子市小坪)で攻め戦いました。畠山の一族、河越(河越重頼)、稲毛(稲毛重成。小山田有重の子)小山田(小山田有重)、江戸(江戸重長)、葛西(葛西清重)、主として七党([武蔵国に勢力のあった武士団のうち主だった七つ])の兵たちが、残らず蜂起して、都合二千騎余りで、三浦衣笠城(今の神奈川県横須賀市衣笠町にあった城)に押し寄せて、一日一夜攻めて、大介(義明)は討たれました(衣笠城の合戦です)。義明の子どもたちは皆久里浜の浦(今の神奈川県横須賀市)より舟に乗って、安房(今の千葉県南部)上総(今の千葉県中部)に逃げたと、人が申しておりました。
(続く)