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「平家物語」咸陽宮(その2)

始皇しくわうなほくやしみ給ひて、しんの国とえんさかひ楚国そこくと言ふ国あり。 おほいなるかは流れたり。かの河に渡せる橋を、楚国の橋と言へり。始皇先に官軍くわんぐんを遣はして、燕丹が渡らん時、河中かはなかの橋を踏まば、落つるやうにしたためて、渡されたりければ、なじかはよかるべき。真ん中にて落ち入りぬ。されどもみづにはちつとも溺れず、平地を行くが如くにて、向かひの岸にぞ着きにける。燕丹こはいかにと思ひて、後ろをかへり見たりければ、亀どもがいくらと言ふ数を知らず、水のうへに浮かれ来て、かふを並べてその上をとほしける。これも孝行かうかうの心ざしを、冥見みやうけんあはれみ給ふによつてなり。




始皇(始皇帝)はくやしくて仕方ありませんでした、秦国と燕の境に、楚国と言う国がありました。大きな河が流れていました(揚子江のことでしょう)。この河に渡した橋を、楚国の橋と呼んでいました。始皇帝は先だって官軍を遣わして、燕丹が橋を渡ろうとして、河中の橋を踏めば、落ちるように細工を施しました、燕丹が橋を渡ると、どうして無事に済むはずもありません。燕丹は河の真ん中で落ちてしまいました。けれども水には少しも溺れず、まるで平地を歩くように、向かいの岸に着きました。燕丹はどういうことかと思って、後ろを振り返って見れば、亀がいくらという数も知れず、水の上に浮かんで、甲羅を並べてその上を通したのでした。これも燕丹が母を思う孝行の気持ちを、冥見([人々の知らないところで、神仏が衆生を見守っていること])が憐れんでのことでした。


続く


by santalab | 2013-11-11 19:51 | 平家物語

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