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「平家物語」山門返牒(その1)

山門の大衆だいしゆこのじやうを披見して、案の如くあるひは平家に同心せんと言ふ衆徒もあり、あるひは源氏に付かんと言ふ大衆もあり、思ひ思ひ心々、異議まちまちなり。老僧らうそうどもの詮議しけるは、我らもつぱ金輪聖主きんりんせいしゆ天長地久てんちやうちきうと祈り奉る。中にも平家は当代たうだい御外戚ごぐわいせき、山門においてこと帰敬ききやうをいたす。しかりと言へども悪行あくぎやうほふに過ぎて、万人これを背き、国々へ討つ手を遣はすと言へども、かへつて夷賊いぞくのために滅ぼさる。源氏は近年よりこの方、度々のいくさに打ち勝つて、運命すでに開けんとす。なんぞ当山たうざん独り宿運尽きぬる平家に同心して、運命開くる源氏を背かんや。すべからく平氏値遇ちぐの儀をひるがへして、源氏合力がふりよくの胸にぢうすべき由、三千一同に詮議して、返牒へんてふをこそ送りけれ。




山門(比叡山)の大衆([僧])たちは木曽義仲からの状を見て、思った通りある者は平家に同心しようと言う衆徒もあり、またある者は源氏に付こうと言う大衆もいました。思い思い心々、意見はまちまちでした。老僧たちは詮議([評議])して、わしらはただ一心に金輪聖主([金輪王]=[須弥山しゆみせん=世界の中心にそびえるという高山。の四州を統治する王])が守っておられるこの世がいつまでも変わらずに続きますようにと祈っておるのじゃ。中でも平家は当代(第八十一代安徳天皇)の外戚([母方の親類])であり、山門に対してもとりわけ帰敬([仏などを心から信じ、尊敬すること])しておる。とは言えども平家の悪行は法に過ぎて、万人は平家に背き、平家が国々へ討つ手を遣わしたが、かえって夷賊([地方の野蛮人])に滅ぼされたと言うぞ。源氏はここ数年、度々の戦に打ち勝って、すでに運命を開こうとしておる。どうして当山ばかりが宿運([前世から定まっている運命])尽きた平家の味方をして、運命を開こうとしておる源氏に背かなくてはならないのだ。すべての平氏の値遇([仏縁])を反故にして、源氏と力を合わせ従うことを、大衆三千人一同に詮議して、木曽義仲に返牒([返書])を送りました。


続く


by santalab | 2013-11-14 12:02 | 平家物語

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