まさに今伊豆の国の流人、源の頼朝、身の咎を悔いず、返つて朝憲を嘲る。しかのみならず奸謀に汲みして同心をいたす源氏ら、義仲行家以下、党を結んで数あり。隣境遠境数国を掠領し、土宜土貢万物を押領す。これによつてあるひは累代勲功の跡を追ひ、あるひは当時弓馬の芸に任せて、すみやかに賊徒を誅し、凶党を降伏すべき由、卑しくも勅命を含んで、しきりに征伐を企つ。
まさに今伊豆国の流人、源頼朝は、罪を悔いることなく、その上朝憲([朝廷で定めたおきて])までもないがしろにしています。そればかりでなく奸謀([悪だくみ])に乗って心を合わせようとする源氏たち、義仲(木曽義仲)行家(源行家)以下の者どもが、党を組んで数多くあります。隣境遠境数箇国を掠領([奪い取って自分の領地とすること])し、土宜([その土地に適した農作物])土貢([みつぎものとして献上する土地の産物])すべtの物を押領([他人の物、所領などを力ずくで奪い取ること])しています。このために一つは累代([代々])の勲功([国家や君主に尽くした功績])に従い、一方今弓馬の芸に委ねて、すみやかに賊徒を誅伐し、凶党を降伏([神仏の力や法力によって悪魔や敵を防ぎおさえること])しようと、力不足ながら勅命([天皇の命令])により、何度も征伐を企てました。
(続く)