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「平家物語」河原合戦(その4)

業忠なりただ、「あな浅まし、木曽がまたまゐさふらふ」とまうしければ、院ぢう公卿くぎやう殿上人てんじやうびと片方かたへ女房にようばうたちにいたるまで、今度ぞ世の失せ果てとて、手を握り、立てぬぐわんもましまさず。業忠重ねて奏聞しけるは、「今日けふ初めて都へ入る東国の武士と思え候ふ。いかさまにも皆笠標かさじるしが代はつて候ふ」と申しも果てぬに、大将軍たいしやうぐん九郎御曹司義経、門前にてむまより下り、門を叩かせ、大音声おんじやうを上げて、「鎌倉のさき兵衛ひやうゑすけ頼朝がおとと九郎くらう義経こそ、宇治うぢの手を攻め破つて、この御所守護のために馳せ参つて候へ。開けて入れさせ給へ」と申されたりければ、業忠あまりのうれしさに、急ぎ築垣ついがきうへよりをどり降るるとて、腰を着き損じたりけれども、痛さはうれしさに紛れて思えず、ふ這ふ御所へ参つて、この由奏聞したりければ、法皇ほふわうおほきに御感ぎよかんあつて、門を開けさせてぞ入れられける。




業忠(平業忠)は、「なんということか、木曽(義仲)がまた戻って来ました」と申すと、院中の公卿殿上人([三位以上の者。四・五位で殿上を許された者])、傍に仕える女房たちにいたるまで、今度こそ世の終わりだと言って、手を握り合い、神仏に祈願するばかりでした。業忠が重ねて奏聞するには、「今日初めて都に入る東国の武士と思われます。あの者たちの笠標([戦場で敵味方を見分けるために、兜などにつけた印])が木曽軍とは異なっております」と言い終わらないうちに、大将軍九郎御曹司義経(源義経)が、門前で馬から下り、門を叩き、大声を上げて、「鎌倉の前兵衛佐頼朝(源頼朝)の弟、九郎義経が、宇治の軍を攻め破って、御所を守護するために急ぎ参りました。門を開けてくださいますよう」と申すと、業忠はあまりのうれしさに、急いで築垣([土塀])上より飛び降りたので、腰を着き損じましたが、痛さはうれしさのあまり感じず、這うようにして御所に参り、これを奏聞すると、法皇(後白河院)はたいそうよろこんで、門を開けて義経たちを院中に入れました。


続く


by santalab | 2013-11-18 11:58 | 平家物語

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