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「平家物語」越中前司最期(その3)

ややあつて、緋威ひをどしよろひ着て、月毛なるむまに、金覆輪きんぷくりんの鞍置いて乗つたりける武者一騎、鞭鐙むちあぶみを合はせて馳せ来たる。越中ゑつちう前司せんじ怪しげに見ければ、「あれは猪俣ゐのまたに親しうさふら人見ひとみ四郎しらうで候ふが、則綱のりつながあるを見て、まうで来ると思え候ふ。苦しうも候はぬ」と言ひながら、あれが近づくならば、尺まんずるものを、落ち合はぬことはよもあらじと思ひて待つところに、あはひ一反ばかりに馳せ来たる。越中の前司、はじめは二人のかたきを一目づつ見けるが、次第に近づく敵をはたとまぼつて、則綱を見ぬひまに、猪俣力足を踏んで立ち上がり、こぶしを強く握り、越中の前司が鎧の胸板むないたを、ばくと突いて、後ろへのけに突きたふす。 起き上がらんとするところを、猪俣うへに乗りかかり、越中ゑつちう前司せんじが腰の刀を抜き、よろひ草摺くさずり引き上げて、つかこぶしとほれ通れと、三刀みかたな裂いて首を捕る。さるほどに人見の四郎も出で来たり。かやうの時は論ずることもありとて、やがて首をば太刀の先に貫き、高く差し上げ、大音声おんじやうを上げて、「この日来ひごろ平家の御方に鬼神おにかみと聞こえつる越中の前司盛俊もりとしをば、武蔵の国の住人、猪俣の小平六こべいろく則綱が討つたるぞや」と名乗つて、その日の功名かうみやうの一の筆にぞ付きにける。




しばらくして、緋威([緋色に染めた革や組紐くみひもなどで威した鎧])の鎧を着て、月毛([葦毛=毛に白い毛が混じっているもの。でやや赤みを帯びて見える馬])の馬に、金覆輪([金または金色の金属を用いて飾った鞍])をの鞍を置いて乗った武者が一騎、鞭鐙を合わせて急ぎやって来ました。越中前司(平盛俊もりとし)が怪しげに見ていると、猪俣則綱のりつなは「あれは猪俣と親しくしている人見四郎(人見恩阿おんあ)です、わたし則綱がいるのを見て、やって来るのだと思います。何も問題ありません」と言いながら、人見が近づいて来れば、近くの注意はおろそかになるであろうし、落ち合わないことはまさかあるまいと思って待っていると、その間一反([約10m])ばかりに急ぎやって来ました。越中前司は、はじめ二人の敵を交互に見ていましたが、次第に近づく敵に気を取られて、則綱を見ない間に、猪俣(則綱)は力足([強く力をこめて足を踏みおろすこと])を踏んで立ち上がり、拳を強く握り、越中前司(平盛俊)の鎧の胸板([鎧の胴の最上部の、胸にあたる部分])を、強く突いて、後ろ向きに突き倒しました。盛俊が起き上がろうとするところを、猪俣(則綱)が上に乗りかかり、越中前司(盛俊)の腰の刀を抜いて、鎧の草摺([鎧の胴の付属具。大腿部を守るためのもの])を引き上げて、柄も拳も通れ通れと、三刀裂いて首を捕りました。やがて人見四郎(恩阿)もやって来ました。このような時には名乗りを上げるべきと、則綱はすぐに盛俊の首を太刀の先に貫き、高く差し上げ、大音声を上げて、「かねがね平家の味方で鬼神と聞く越中前司を、武蔵国の住人、猪俣小平六則綱が討ち捕ったぞ」と名乗って、その日の功名の一の筆([筆頭])に書き付けられました。


続く


by santalab | 2013-11-18 19:43 | 平家物語

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