人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Santa Lab's Blog


「平家物語」六道之沙汰(その1)

「世をいとふ御習ひ、何か苦しうさぶらふべき。早や早や御見参げんざんあつて、還御くわんぎよなしまゐらさせさぶらへ」とまうしければ、女院御涙を抑へて、御庵室あんじつに入らせおはします。「一念の窓のまへには、摂取せつしゆ光明くわうみやうし、十念じふねんの柴のとぼそには、聖衆しやうじゆ来迎らいかうをこそ待ちつるに、思ひのほかの御幸ごかうかな」とて、御見参ありけり。法皇ほふわうこの御有様を叡覧あつて、おほせなりけるは、「悲想ひさうの八万ごふ、なほ必滅ひつめつうれへに会ひ、欲界よくかいの六天、いまだ五衰ごすゐの悲しみをまぬかれず。喜見城きけんじやう勝妙しようめうらく中間禅ちうげんぜん高台かうだいかく、夢の内の果報くわはう、またまぼろしあひだの楽しみ、すでに流転るてん無窮むぐうなり。車輪のめぐるが如し。




阿波内侍は「世を逃れて出家された上は、後白河院とお会いになられても何の不都合もございません。さあ早くお会いになられてから、お帰りいただいてはどうでしょう」と申したので、建礼門院は涙を抑えて、庵に入りました。建礼門院は、「一度念仏を唱えては、摂取([仏が衆生しゆじやうを救うこと])の光明([仏、菩薩の心身から発する光])を期待し、十念([仏、法、僧、戒、施、天、休息ぐそく安般あんぱん、身非常、死の十について念ずること])しては柴の戸から、聖衆([極楽浄土の諸菩薩])の来迎([極楽浄土へ導くため阿弥陀仏や諸菩薩が紫雲に乗って迎えに来ること])を待ち望んでおりましたが、思いのほか後白河院が御幸に参られるとは」と申して、後白河院と対面しました。後白河院は建礼門院をご覧になられて、仰られるには、「悲想(非想非非想天、有頂天、[衆生の世界である三界、欲界、色界、無色界の最頂部、無色界の第四天にあるという仏界に最も近い所])では八万劫(劫は時間の最長単位、仏教では何年と決められていないそうですが、ヒンドゥー教では43億2000万年を表すらしい)の寿命が与えられるそうだが、それでも死からは逃れられないし、欲界の六天([六欲天]=[四王しわう天、たう利天、夜摩やま天、兜率とそつ天、楽変化らくへんげ天、他化自在たけじざい天])では、五衰([天人の死に際して現れるという五種の衰えの相])すら免れることはできないそうだ。喜見城(たう利天にはあの帝釈天が住んでいるといわれていますが、その御殿が喜見城とのこと)では勝妙([きわめてすぐれていること])の曲を聞いたり(喜見城の庭園では諸天人が遊び戯れているらしい)、中間禅(色界の中間あたりらしい)に高くそびえ建つ閣に上ることも、夢の中だけの果報([前世での行いの結果として現世で受ける報い])、または幻として見る楽しみにすぎず、流転無窮([流転]=[迷いの生死を繰り返すこと]、[無窮]=[果てしないこと])というものか。人間というものは車輪が回るように同じことを繰り返しているだけのことだ。


続く


by santalab | 2013-11-21 17:15 | 平家物語

<< 「平家物語」六道之沙汰(その2)      「平家物語」大原御幸(その8) >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧