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「平家物語」内侍所都入(その1)

新中納言知盛とももりきやうは、「見るべきほどの事をば見つ、今はただ自害をせん」とて、乳母子の伊賀の平内左衛門へいないざゑもん家長いへながを召して、「日来ひごろの契約をばたがへまじきか」とのたまへば、「然ることさふらふ」とて、中納言ちうなごん殿にも、鎧二両にりやう着せ奉り、我が身も二両着て、手に手を取り組み、一緒に海にぞ入り給ふ。これを見て、当座たうざにありける、二じふ余人の侍ども、続いて海にぞしづみける。されどもその中に、越中ゑつちう次郎じらう兵衛、上総かづさ五郎ごらう兵衛、悪七兵衛、飛騨の四郎しらう兵衛などは、何としてかは逃れたりけん、そこをもつひに落ちにけり。海上かいしやうには赤旗、赤印ども、切り捨てかなぐり捨てたりければ、竜田川たつたがは紅葉葉もみぢばを、嵐の吹き散らしたるに異ならず。水際みぎはに寄する白波は、薄紅うすぐれなゐにぞなりにける。




新中納言知盛卿(平知盛。平清盛の四男)は、「見ておくべきものはすべて見終えた、今はただ自害しよう」と申して、乳母子である伊賀平内左衛門家長(平家長)を呼んで、「日頃の約束を覚えておるか」と申すと、家長は「忘れておりません」と答えて、中納言殿(知盛)に、鎧二両を着せ、家長も二両着て、手を組み合って、一緒に海に入りました。これを見て、その場に居合わせた、二十人余りの侍たちは、続いて海に沈みました。けれどもその中で、越中次郎兵衛(平盛嗣もりつぐ)、上総五郎兵衛(藤原忠光ただみつ)、悪七兵衛(藤原景清かげきよ)、飛騨四郎兵衛(藤原景俊かげとし)たちは、どうして逃れたのか、そこを落ちて行きました。海上には赤旗(平家の旗印)、赤印が、切り捨てかなぐり捨てられて、まさに竜田川(『ちはやふる 神代も聞かず 竜田川』)の紅葉場を、嵐が吹き散らしたようでした。水際に寄せる波は、薄紅に染まりました。


続く


by santalab | 2013-11-28 07:37 | 平家物語

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