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「義経記」熊野の別当乱行の事(その3)

斯くて次の年の春、宿願しゆくぐわんを晴らさせ給はん為に参詣あり。師長もろなが、大納言殿よりして、百人道者だうしや付け奉りて、つの山の御参詣を事故ことゆゑなく遂げ給ふ。本宮証誠殿しようじやうどの御通夜おんつやありけるに別当べつたうも入堂したりけり。遙かに夜更けて、内陣にひそめきたり。何事なるらんと姫君御覧ずる処に、「別当のまゐり給ひたる」とぞまうしたり。別当かすかなる燈火ともしびの影よりこの姫君を見奉り給ひて、さしもしかるべき行人にておはしけるが、いま懺法せんぽふだにも過ぎざるに、急ぎ下向げかうして、大衆だいしゆを呼びて、「如何なる人ぞ」と問はれければ、「これは二位にゐの大納言殿の姫君、右大臣殿の北の方」とぞ申しける。別当、「それは約束ばかりにてこそあんなれ。未だ近付き給はずさうらふと聞くぞ。先々さきさき大衆の、あはれ熊野に何事も出で来よかしと人の心をも我が心をも見んと言ひしは今ぞかし。出で立ちて悪しきのなからん所に、道者追ひ散らして、この人を取つてくれよかし。別当がちごにせん」とぞのたまひける。




こうして翌年の春、二位大納言の姫君は宿願を遂げたことをお礼参りするために熊野に参詣しました。師長(藤原師長)は、二位大納言殿より、百人の道者([連れ立って社寺を参詣・巡拝する者])を姫君に付けて、熊野三山([熊野三社]=[熊野本宮大社・熊野速玉はやたま大社・熊野那智大社])の参詣を何事もなくしおえました。熊野本宮の証誠殿(熊野本宮大社第三殿)で通夜([神社や仏堂にこもって終夜祈願すること])した折、熊野別当も入堂しました。遥かに夜も更けて、熊野別当は内陣([社寺の内部で、神体または本尊を安置してある奥の間。内殿])で密やかに勤行していました。何かと思って姫君が見ていると、「熊野別当が内陣に参っております」と申す者がいました。熊野別当もかすかな燈火の明かりで姫君を見ました、熊野別当はそれこそりっぱな行人([仏道を修行する者])でしたが、まだ懺法([経をじゆして罪過を懺悔する法要])も終らないうちに、急ぎ戻り、大衆([僧])を呼んで、「いったい誰なのか」と訊ねると、「あの方は二位大納言殿の姫君で、右大臣殿(藤原師長。師長自身は右大臣になったことはない)の北の方です」と答えました。熊野別当は、「北の方というが約束しただけのことだろう。結婚はまだだと聞いたぞ。前々より大衆が、熊野に一大事を起こしてわしに従うかどうか知りたいと思っていたが今をおいて外にない。ここを出て粗末ではない場所に、道者を追い払って、この姫君をさらって来てくれ。わしの妻にしたい」と申しました。


続く


by santalab | 2013-12-02 08:24 | 義経記

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