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「義経記」書写山炎上の事(その10)

ゐんの御所にはこれを聞こし召し、何故なにゆゑ、書写は焼けたると、早馬はやむまを立てて御たづねあり。「まことに焼けたらば学頭がくとうを始めとして衆徒しゆとを追ひ出だせ」との院宣ゐんぜんなり。侍従の下部しもべ向かひて見れば、一宇も残らず焼けければ、まつたく時を移さず、まゐりて陳じまうさんとて、馳せ上り、院の御所に参じて陳じまうしければ、「さらば罪科ざいくわの者を申せ」とおほせ下さる。「修行者しゆぎやうじやには武蔵坊むさしばう衆徒しゆとには戒円かいゑん」と申す。公卿くぎやうこれを聞き給ひて、「さては山門なりし鬼若おにわかが事ごさんなれば、これが悪事は山上の大事にならぬ先に、しづめたらんこそ君ならめ。戒円かいゑんが悪事是非なし。詮ずるところ戒円を召せ。戒円こそ仏法ぶつぽふ王法わうぼふ怨敵をんできなれ。しやつを捕りて、糾問きうもんせよ」とて、摂津の国の住人ぢゆうにん昆陽野こやのの太郎うけたまはつて、百騎の勢にて馳せ向かひ、戒円を召して、院の御所にまゐる。




院御所ではこれを聞いて、どうして、書写山(兵庫県姫路市にある圓教寺)が焼けたのだと、早馬を立てて事情を尋ねました。「事実ならば学頭([一宗の学問の統轄者])をはじめ衆徒([僧])たちを追い出せ」との院宣がありました。侍従([中務なかつかさ省に属し、天皇に近侍した官人])の下部([官に仕えて、雑役を勤めた下級の役人])が向かい見ると、一宇も残らず焼けていたので、わずかの時も置かずに、院参し陳謝申さんと、急ぎ上り、院御所に参って陳じ申せば、「ならば罪科を犯した者を差し出せ」と命が下されました。「罪人は修行者の武蔵坊(弁慶)、衆徒([僧])の戒円でございます」と申しました。公卿はこれを聞いて、「ということは山門(比叡山)の鬼若が事件を起こしたということだ、この悪事が山上の一大事にならぬ前に、鎮めるのが君(後白河院)の務めでございます。戒円の悪事は申すまでもございません。よくよく考えますれば戒円を召すべきでございます。戒円こそ仏法王法(朝廷)の怨敵([恨みのある敵])です。やつを捕らえて、糾問([罪や不正を厳しく問いただすこと])せよ」と、摂津国の住人である昆陽野太郎に命じたので、昆陽野太郎は百騎の勢で急ぎ向かい、戒円を捕らえて、院御所に参りました。


続く


by santalab | 2013-12-10 21:47 | 義経記

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