日来は業平、山蔭中将などの眺めける名所名所多けれども、牛若殿打ち解けたる時こそ面白けれ、思ひある時は名所も何ならずとて、打ち過ぎ給へば、宇津の山打ち過ぎて、駿河なる浮島が原にぞ着き給ひける。
かつて業平(在原業平)、山蔭中将(鉢かづき姫を助けたという伝説上の人物)たちが眺めた名所名所が数多くありましたが、牛若(源義経)が気楽であればこそ興味を引いたことでしょうが、決心して下れば名所も目に入らず、打ち過ぎました、義経たちは宇津山(静岡県静岡市。東海道の難所)を越えて、駿河国の浮島が原(静岡県沼津市)に着きました。
(続く)