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「義経記」住吉大物二箇所合戦の事(その4)

上野かうづけ判官はうぐわんこれを見て、「さな言はせそ」とて、押し違へて、えびらの中指し取つて、よつ引いてひやうど射る。忠信ただのぶが矢差しげて立ちたる弓手ゆんでかぶとの鉢を射けづりて、かぶらは海へ入る。忠信これを見て、「地体ぢたいこの国の住人ぢゆうにんは敵射るやうをば知らざりける。奴に手並みのほどを見せん」とて、尖矢とがりやを差しげて、小引きに引きて待つ。敵一の矢射損じて、念もなげに思ひなして、二の矢を取つてつがひ、打ち上ぐるところを、よつ引きてひやうど射る。弓手の脇の下より馬手めての脇に五寸許り射出だす。すなはち海へたぶと入る。忠信次の矢をばげながら御前にまゐりける。不覚とも高名かうみやうとも沙汰の限りとて、一の筆にぞ付けられける。豊島てしま冠者くわんじや上野かうづけ判官はうぐわん討たれければ、郎等らうどうども矢比やごろよりとほく漕ぎ退けたり。片岡かたをか、「如何に四郎兵衛しらうびやうゑ殿、いくさは何とし給ひたり」と言へば、「手の上手じやうずが仕りてさうらふ」とまうしければ、「退き給へ。さらば経春つねはるも矢一つ射て見ん」と言ひければ、さらばとて退きにけり。




上野判官はこれを見て、「その口を黙らせてやるわ」と言って、佐藤忠信さだのぶとは異なり、押し違へて、箙([矢を入れる容器])から中指し([征矢]=[戦闘用の矢])取つて、弓を十分引いて矢射ました。忠信は矢を番えて立っていましたが弓手([左])の兜の鉢をかすめて、矢は海へ落ちました。忠信はこれを見て、「そもそもこの国の住人は敵を射る方法を知らないのか。奴にわたしの手並みのほどを見せてやる」と言って、尖矢([先が鋭く尖ったやじり])を弓に番えると、弓を少し引いて待ち構えました。敵(上野判官)は一の矢射損じて、しまったと思い、二の矢を取つて弓に番え、弓を引くところを、忠信が十分弓を引いて矢を射ました。矢は上野判官の弓手([左])の脇の下より馬手([右])の脇にかけて五寸(約15cm)ばかり抜き抜けました。上野判官はたちまち海へどぼんと落ちました。忠信は次の矢を番いながら義経の御前に参りました。不覚とも高名とも沙汰次第でしたが、一の筆([筆頭者])として記されました。豊島冠者と上野判官が討たれたので、郎等([家来])たちは矢比([矢を射当てるのに適当な距離])の遠くまで漕ぎ退きました。片岡(片岡常春つねはる)は、「どうだ四郎兵衛殿(佐藤忠信)、軍をどう思うや」と言うと、「手の上手が勝つものです」と申したので、片岡(常春)「そこ退いてくれ。そういうことならばわたし経春も矢の一つ射てやるぞ」と言ったので、忠信はならばとそこを退きました。


続く


by santalab | 2013-12-31 13:55 | 義経記

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