人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Santa Lab's Blog


「平家物語」大臣殿被斬(その6)

今またかかる御目に遭ひ給ふ御事も、前世ぜんぜ宿業しゆくごふなれば、世をも人をも神をも仏をも、恨み思し召すべからず。大梵王宮だいぼんわうぐう深禅定じんぜんぢやうの楽しみ、思へば程なし。いはんや電光でんくわう朝露てうろの下界の命においてをや。たう利天の億千ざい、ただ夢の如し。三じふ九年を過ぎさせ給ひけんも、わづかに一時いつしあひだなり。たれか舐めたりし不老ふらう不死の薬、誰か保ちたりけん東父とうぶ西母せいぼが命、秦の始皇しくわうの奢りをきはめ給ひしも、つひには驪山りさんの塚にうづもれ、漢の武帝の命をしみ給ひけんも、むなしく茂陵もりようの苔に朽ちにき。しやうあるものは必ず滅す。釈尊しやくそんいまだ栴檀のけぶりまぬかれ給はず。楽しみ尽きて悲しみ来たる。




今またこのような憂き目に遭うのも、前世の宿業([現世で報いとしてこうむる、前世に行った善悪の行為])のためですから、世も人も神も仏も、恨みに思ってはいけません。大梵王宮([大梵天王の住む宮殿]。[大梵天王]=[梵天]=[最高位の神らしい。インドの神])の深禅定([思いを静め、心を明らかにして真正の理を悟るための修行])に比べれば、わずかな違いがあるだけのことです。ましてや電光朝露([はかなく消えやすいことのたとえ])の下界の命のことです。たう利天(須弥山しゆみせんの頂にあるという天界。帝釈天が住み、寿命は人間界の10万年らしい)の億千歳の寿命もまた、夢のようにはかないものです。あなたが三十九年永らえたことも、わずか一瞬のことなのです。いったい誰が不老不死の薬を舐めたことがありましょう、誰が東父([東王父]=[中国の伝説上の神仙])西母([西王母]=[中国の古代神話上の女神])の命を保ったでしょうか、秦始皇帝(万里の長城を造った人。始皇帝の墓兵馬俑へいばようは世界遺産)は栄華を極めましたが、終には驪山(西安の東に位置する山)の塚に埋もれ、漢武帝は命を惜しみましたが、茂陵(漢武帝の墓陵)の苔と朽ちました。命あるものはすべて滅します。釈尊(釈迦)でさえ死から逃れることはできませんでした。楽しみが尽きると悲しみが来るのです。


続く


by santalab | 2014-01-06 08:07 | 平家物語

<< 「承久記」尾張の国にして官軍合...      「承久記」尾張の国にして官軍合... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧