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「義経記」義経鬼一法眼が所へ御出の事(その13)

法眼ほふげんすかしおほせたりと世に嬉しげにて、日来は音にも聞かじとしける御曹司おんざうしの方へまうしけるは、見参げんざんに入り候ふべき由を申しければ、出でて何にかせんと思し召しけれども、呼ぶに出でずは臆したるにこそと思し召し、「やがてまゐり候ふべき」とて使ひをかへし給ひける。この由を申しければ、世に心地よげにて、日来の見参所へ入れ奉り、尊げに見えんが為に、素絹そけんの衣に袈裟懸けて、机に法華経ほけきやう一部置いて一の巻の紐を解き、妙法蓮華経めうほうれんげきやうと読み上ぐるところへ、憚るところなくつつと入り給へば、法眼片膝を立て、「これへこれへ」と申しける。すなはち法眼と対座になほらせ給ふ。法眼が申しけるは、「去んぬる春の頃より御入り候ふとは見まゐらせ候へども、如何なる跡なし人にて渡らせ給ふやらんと思ひ参らせ候へば、かたじけなくも左馬の頭殿かうのとのの君達にて渡らせ給ふこそ忝き事にて候へ。この僧ほどの浅ましき次の者などを親子の御契りの由うけたまはさうらふ。まことしからぬ事にて候へども、まことに京にも御入り候はば、万事頼み奉り存じ候ふ。さても北白川きたしらかは湛海たんかいまうす奴御入り候ふが、何故なにゆゑともなく法眼が為にあたを結び候ふ。あはれ失はせて給はり候へ。今宵こよひ五条ごでうの天神にまゐり候ふなれば、君も御参り候ひて、彼奴きやつを斬つて首を捕つて賜はり候はば、今生こんじやうの面目まうし尽くし難く候ふ」とぞ申されける。




法眼(鬼一法眼)はうまくいったとよろこんで、日頃は音にも聞きたくもない御曹司(源義経)の許へ使いを遣って、面会したいと申しました、義経は何か企てているはずとは思いましたが、呼んで参らなければ臆することよと思って、「すぐに参る」と申して使いを返しました。これを伝えると、法眼はたいそう心地よさそうでした、義経をいつもの見参所へ招き入れると、尊げに見せるために、素絹([精錬していない絹])の衣に袈裟をかけて、机には法華経を一部置いて一の巻の紐を解き、妙法蓮華経(法華経の一番最初)と読み上げるところへ、遠慮なく義経が入ってきたので、法眼は片膝を立てて、「こちらへ」と申しました。義経はすみやかに法眼と対座しました。法眼が申すには、「去る春頃より訪ねておいでですが、どのようなお方かと思っておりましたところ、畏れ多くも左馬頭殿(源義朝よしとも)の君達([子])であるとお聞きして忝く思っております。この僧(法眼)ほどの賎しい次の者([身分の低い者])などと親子の契りを結んでいただいたと聞いております。本当なのか疑うようですが、もし確かでありますれば、お頼み申し上げたいことがございます。と申すのも北白川(現京都市左京区)に湛海と申す奴がおりますが、理由もなく法眼を恨んでおります。なんとか命を失ってもらいたいのです。今宵五条の天神(現京都市下京区にある五條天神宮)に参りますので、君も参られて、きやつを斬って首を捕っていただければ、今生の面目も立ちます感謝は申し尽くせません」とぞ申しました。


続く


by santalab | 2014-02-05 08:22 | 義経記

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