五人の者どもこれを見て、さしも居敷かりつる湛海だにも斯くなりたり。まして我々敵ふまじと皆散り散りにぞなりにける。御曹司これを御覧じて、「憎し。一人も余すまじ。湛海と連れて出づる時は、一所とこそ言ひつらむ。穢なし、返し合はせよ」と仰せありければ、いとど足早にぞ逃げにける。かしこに追ひ詰め、はたと斬りここに追ひ詰め、はたと斬り、枕を並べて二人斬り給へば、残りは方々へ逃げけり。三つの首を捕りて、天神の御前に杉のある下に念仏申しおはしけるが、この首を棄てやせん、持ちてや行かんと思し召すが、法眼が構へて構へて首捕りて見せよとあつらへつるに、持ちて行きて、胆をつぶさせんと思し召し、三つの首を太刀の先に差し貫き帰り給ひ、法眼が許におはして御覧ずれば、門を閉して、橋引きたれば、今叩きて義経と言はばよも開けじ。これほどの所は跳ね越し入らばやと思し召し、口一丈の堀、八尺の築地に飛び上がり給ふ。木末に鳥の飛ぶが如し。
五人の者たちはこれを見て、あれほど威張っていた湛海でさえ斬られたのだ。まして我々には敵うわけもないと散り散りになって逃げました。御曹司(源義経)はこれを見て、「憎い奴らめ。一人も逃がすまい。湛海と連れて出た時は、一所でいかにもなろうと申したのではないか。ずるいぞ、戻ってきてわたしと勝負しろ」と申したので、さらに足早になって逃げました。あちらに追い詰め、さっと斬りここに追い詰め、さっと斬り、枕を並べて二人斬りましたが、残りは方々へ逃げてしまいました。義経は三つの首を捕って、天神の御前に杉があるその下で念仏を唱えていましたが、この首を棄てようか、持って帰ろうかと思いながら、法眼(鬼一法眼)が必ずや首を捕って見せよと申したのならば、持って帰り、胆をつぶしてやろうと思って、三つの首を太刀の先に差し貫いて帰りました、法眼の屋敷を見れば、門を閉ざして、橋も引いていたので、今さら門を叩いて義経と申してもよもや開けまい。これほどの所ならば飛び越えて入ろうと思って、口一丈(約3m)の堀を越え、八尺(約2.4m)の築地([土塀])に飛び上がりました。まるで木末を鳥が飛び回るようでした。
(続く)