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「義経記」忠信最期の事(その3)

中門の縁に差し入りて見ければ、上にりたる座敷あり。ひたと上りて見ければ、上うすく、きやうの板屋の癖として、月は洩り、星は溜れどきければ、所々はまばらなり。健者すくやかものにてあるあひだ左右さうかひなを挙げて、いへを引き上げつと出でて、こずゑを鳥の飛ぶが如くに散り散つてぞ落ちて行く。江馬えまの小四郎これを見て、「すはや敵は落つるぞ。ただ射殺せ」とて精兵せいびやうどもに散々に射さす。手にもたまらざりければ、矢比やごろとほくぞなりにける。また夜の曙なれば、町里小路まちさとこうぢはづし置きたる雑車ざふぐるま、駒のひづめしどろにして、思ふやうにも駆けざりければ、かくて忠信ただのぶをぞ失ひける。




中門の縁([門と外の境に敷く板])に近寄って見ると、上に古い座敷がありました。門伝いに上って見れば、上は板薄く、京の板屋([板屋根の家])なれば、月の光が洩れ、星の光はさすがに板葺きでしたので、所々まばらに明るく光を通していました。忠信ただのぶ(佐藤忠信)は健者([したたか者])でしたので、屋根を左右の腕で持ち上げて、座敷から出ると、梢を鳥が飛ぶように屋根伝いに逃げて行きました。江馬小四郎(北条義時よしとき。鎌倉幕府第二代執権)はこれを見て、「おい敵が逃げたぞ。射殺してしまえ」と言って精兵([強弓の兵])たちに散々に射させました。兵は射るのを止めなかったので、矢比([矢を射る距離])はたちまち遠くになりました。また夜曙前のことでしたので、町里小路に外し置いた雑車([雑用に使う車])が、馬の足を止め、思うように駆けることができなかったので、とうとう忠信を見失ってしまいました。


続く


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by santalab | 2014-02-20 20:37 | 義経記 | Comments(0)

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