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「義経記」直江の津にて笈探されし事(その2)

判官はうぐわん問答もんだふし給ひけるは、昨日きのふまでは羽黒山伏とのたまひしが、今は羽黒近ければ、引き代へて、「熊野より羽黒へまゐさうらふが、船をたづねてこれに候ふ。先達せんだち御坊ごばうは旦那尋ねにおはしまして候ふ。これは御留守に候ふ。何事ぞ」などと問答し給ふところに武蔵坊むさしばう物の翔けりたるやうにてぞ出で来たりまうしけるは、「あのおひの中には三十三だい聖観音しやうくわんおんきやうより下しまゐらせ候ふが、来月四日の頃には御宝殿に入れ参らせ候はんずるぞ。各々身不浄ふじやうなる様にて、左右さうなく近付きて権現の御本地ほんぢ穢し給ふな。おほせらるべき事あらば、外処よそにて仰せられ候へ。権現を穢し参らせ給ふほどならば、おひすすがざらんより外はあるまじ」と威しけれども、少しももちゐずして、口々に罵りけり。




判官(源義経)は受け答えして、昨日までは羽黒山伏と名乗っていましたが、今は羽黒に近い所でしたので、言い換えて、「熊野より羽黒(現山形県鶴岡市)へ参るところでございますが、船を探してここに留まっております。先達([諸山参詣者の宗教的指導者])の御坊は旦那([檀家])を尋ねて托鉢に出ております。ここにはおりません。何かご用ですか」などと問答しているところに武蔵坊(弁慶)がまるで鳥が飛ぶように帰って来て申すには、「あの笈([荷物や書籍を入れて背負う竹製の箱])の中には三十三体の聖観音を京より下し参らせておるが、来月四日頃には宝殿に安置するものぞ。各々身不浄の者どものようだが、むやみに近付いて権現(羽黒権現)の本地([仏・菩薩が人々を救うために神の姿となって現れた垂迹すいじやく身に対して、その本来の仏・菩薩])を穢すでない。申したいことがあれば、よそで申されよ。権現を穢せば、笈を清めなくてはならぬ」と脅しましたが、まったく気にせず、口々に罵りました。


続く


by santalab | 2014-02-24 08:41 | 義経記

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