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「義経記」忠信吉野に留まる事(その11)

去年の春の頃、わざと人を下して、『継信つぎのぶ討たれさうらひぬ』と告げて候ひしかば、なのめならず悲しみ候ひけるが、『継信つぎのぶが事はさて力及ばず、明年の春の頃にもなりなば、忠信ただのぶが下らんと言ふ嬉しさよ。早や今年の過ぎよかし』なんど待ち候ふなるに、君の御下り候はば、母にて候ふ者、急ぎ平泉ひらいづみまゐり、『忠信はいづくに候ふぞ』とまうさば、継信は屋島、忠信は吉野にて討たれけるとうけたまはりて、如何ばかり歎き候はんずらん。それこそ罪深く思えて候へ。君の御下り候ひて、御心安く渡らせおはしまし候はば、継信忠信が孝養けうやうは候はずとも、母一人不便ふびんおほせをこそあづかりたく候へ」と申しも果てず、袖をかほに押し当てて泣きければ、判官はうぐわんも涙を流し給ふ。十六人の人々も皆よろひの袖をぞ濡らしける。




去年の春頃、人を下して、『継信(佐藤継信)が討たれました』と母に知らせましたが、たいそう悲しんで、『継信のことはあきらめましょう、明年の春頃になれば、忠信(佐藤忠信)が下ると聞いてうれしく思います。ああ早く今年が過ぎればよいものを』などと申して待っております、君(源義経)が奥州に下られれば、母は、急ぎ平泉(現岩手県西磐井郡平泉町)へ参り、『忠信はどこですか』と申して、継信は屋島(現香川県高松市)、忠信は吉野(現奈良県吉野郡吉野町)で討たれたと聞けば、どれほど嘆き悲しむことでしょう。罪深く思えてなりません。君(義経)がお下りになられて、無事奥州にお着きになられたならば、継信忠信の孝養([供養])はされずとも、母一人ばかりに憐れみの言葉を掛けていただきたいと存じ上げます」と申し終わらないうちに、袖を顔に押し当てて泣いたので、判官(義経)も涙を流しました。十六人の者たちも皆鎧の袖を濡らしました。


続く


by santalab | 2014-02-25 22:53 | 義経記

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