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「義経記」忠信吉野山の合戦の事(その18)

忠信ただのぶ思ふ座敷にむずと居直ゐなほり、菓子くわしども引き寄せて、思ふ様にしたためて居たるところに、敵の声こゑこそおめきけれ。忠信これを聞きて、提子ひさげさかづき取りまはらんほどに、時刻移しては叶はずと思ひ、酒に長じたるをとこにて、瓶子へいじの口に手を入れて、かたはらを引きこぼして打ち飲みて、兜は膝の下に差し置き、少しも騒がず、火にてひたひあぶりけるが、重きよろひは着たり、雪をば深く漕ぎたり。軍疲いくさつかれに酒は飲みつ、火には当たる、敵の寄せ手喚くをば、夢に見てねぶり居たりけり。大衆だいしゆここに押し寄せて、「九郎判官はうぐわんこれに御渡りさうらふか、出でさせ給へ」と言ひけるこゑに驚いて、兜を着、火を打ち消して、「何に憚りをなすぞや。心ざしのある者はこなたへまゐれや」とまうしけれども、命を二つ持ちたらばこそ、左右さうなくも入らめ、ただ外に渦巻い居たり。山科やましな法眼ほふげんまうしけるは、「落人おちうとを入れて、夜を明かさん事も心得ず、我ら世にだにもあらば、これほどのいへ一日に一つづつも造りけん。ただ焼き出だして射殺せ」とこそ申しける。




忠信(佐藤忠信)は思うままに座敷にどっかり座ると、すぐに菓子を引き寄せて、頬張っているところに、敵が喚く声が聞こえました。忠信はこれを聞いて、提子([銀・すず製などの、つると注ぎ口のある小鍋形の銚子])と盃を持ちながら様子を窺って走り回っていましたが、時間が経てばまずくなると思いました、酒好きだったので、瓶子の口に手を入れて、あたりにこぼしながら急ぎ飲みました、兜は膝の下に置き、少しも騒がず、火に当たっていましたが、重い鎧を着て、雪深い所を漕ぎ分けたので、[軍疲れに酒を飲み、火に当たり、敵の寄せ手が喚くのを、夢に見ながら眠ってしまいました。大衆([僧])はそんなところに押し寄せて、「九郎判官(源義経)はここにおられるか、出て来られよ」と言う声に驚いて、兜をかぶり、火を打ち消して、「遠慮はいらぬ。思う者はことらに参れ」と申しましたが、命を二つ持つ者ならともかく、命を惜しんで入って来る者もなく、ただ外を取り囲むばかりでした。山科法眼が申すには、「落人を坊に入れたまま、夜を明かしては恥となる。我らの世であれば、これほどの家など一日に一つづつも造れよう。ただ焼き出して射殺せ」と申しました。


続く


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by santalab | 2014-02-26 00:44 | 義経記 | Comments(0)

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